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Chapter 5
指輪 ②
しおりを挟むリビングに入ってきたその女を見たとき、栞はタカ◯ヅカの男役の人かと思った。
すっきりとした黒髪のショートヘアに、身長は一七〇センチ近くあろうか。
そのすらりとした上背とマニッシュな雰囲気で、ダークグレーのマ◯クスマーラのパンツスーツを見事に着こなしている。
肩に掛けた黒いトートバッグは、一見何の変哲もなさそうに見えるが、マイクログ◯チシマである。
「神宮寺先生、この度はご結婚おめでとうございます」
彼女は深々と丁寧にお辞儀した。まさに百貨店ならではの、お客様に対して日頃の謝意を最大限に込めた礼だった。
「あぁ、ありがとう。わざわざ東京から、こんな山奥にまで来てもらって悪かったね」
いつものように礼儀を弁えぬ話しぶりだが、無愛想な神宮寺としてはめずらしく、これでも「最大限の謝意」をあらわしている。
「いえいえ、ちょうど大阪の店舗に出張する予定がございましたので、どうぞお気になさらずに。……こちらが、先生の奥様になられた方ですの?」
彼女は切れ長の目を細め、にこやかに微笑みながら栞を見た。二人の目が合う。
すると、彼女の笑みがさらに深くなり、その目尻に小ジワが走った。
——うーん、先刻からずーっと考えてんねんけど、この人何歳なんかなぁ。アラフォーくらいかな?アラフィフってことはあらへんよなぁ?
まさしく、こういう女性を「美魔女」と呼ぶのだろう、としみじみ思った。
「そうだよ。栞っていうんだ」
神宮寺は心なしかはにかみながら「妻」を紹介した。普段の生意気さが影を潜めて、なんだか普通の青年に見える。
「や…八木 栞です」
栞は自己紹介して、ぺこり、と頭を下げた。
「もう『八木』じゃないだろ?」
神宮寺がじろり、と栞を睨む。
——そ、そうや。あたし、たっくんと入籍したんやったわ。
「……ほ、本田 栞です」
——うっわぁ、めっちゃ照れるしぃ。
ふと上目遣いで彼女を見ると、その笑顔が歪んでいるような気がした。
しかし……それもすぐに元に戻ったが。
彼女がスーツのポケットからカードケースを取り出した。バッグと同じマイクログ◯チシマだ。
「奥さま、お初にお目にかかります。いつも神宮寺先生には弊社をご愛顧いただき、誠にありがとうございます」
カードケースから一枚の名刺を抜き取り、栞に差し出した。
「華丸百貨店の青山 登茂子と申します」
渡された名刺には、
【華丸百貨店 本社 営業本部 営業政策室 お得意様営業企画部/部長 青山 登茂子】
と、あった。
——『あおやま』って……
栞は名刺から顔を上げた。
華丸百貨店は、栞の母親が結婚前に勤めていたところだったと、姉の稍から聞いていた。
その瞬間、点と点だった「情報」が栞の脳内で神経伝達物質によってつながった。
——もしかして、この女って……
あたしの本当のお父さんの奥さんで、あたしの「お兄さん」のお母さんとちゃうのん?
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