契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 4

幽境 ③

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「——あ、あああああぁ………っ⁉︎」

   GWを京都市内にいる単身赴任中の夫とともに過ごして「フル充電」したと思われるしのぶが、ログハウスに来てリビングに入るなり、奇怪な雄叫びをあげた。

「神宮寺先生っ、とうとう……栞ちゃんに手を出しましたねっ‼︎」
   さらに、悲痛な叫び声となる。

——な、な、なんでバレたんっ⁉︎

「バレるに決まってるでしょうよ……っ!」

   栞の表情を読んだしのぶは、そのまま崩れるようにL字型のソファに突っ伏した。

「おかしいなー。なんで神崎にバレたんだろう?……なぁ、栞?」

   反対側のソファにいた神宮寺が、とろけるような笑みを浮かべて、隣にぴったりと引き寄せた栞を見つめる。さらに、ビミョーな手つきで彼女の腰をさわさわしていた。
   それになにより、栞自身がそんな彼をまったく嫌がっていなかった。

   このGWの間、肝心の仕事は事実上「休業状態」になっていた神宮寺から、隙あらば寝室ベッドルームにあるキングサイズのベッドに引っ張り込まれていた栞は、二十七年間守ってきたものと一緒に、彼との「他人から踏み込まれたくない領域パーソナルスペース」までも、こっぱみじんこに突き破られていたのだ。


「……というわけで、神崎。おれから『通常夫婦間で行われる性交およびこれに準じる行為等を要求しない。』とかいう契約内容は省いてくれ。そもそも、もう『契約』自体、必要ないんじゃないのか?……なぁ、栞」

   そう言って、神宮寺は栞のつむじにちゅ、とキスを落とした。

「ちょ、ちょっと……ほんとに、オンナに対しては見境がなくて人でなしの……あの『作家・神宮寺 タケル先生』ですか?もしかして、GW中にこの山奥に不時着した宇宙人によって、魂を乗っ取られてなり代わられたんじゃ……」

   しのぶには目の前の神宮寺が、とてもとても信じられなかった。それよりもまだ、東京ス◯ーツの宇宙人に関する記事の方が信憑性がある。

「でっ…でもっ、『契約』はきちんと結んでもらいますよっ、栞ちゃんのためにっ!」

   しのぶがどんなに神宮に睨まれようが、移り気な彼が「結婚生活」に飽きたとき、哀れな栞を露頭に迷わせるわけにはいかないのだ。

「契約書を書き換えるために弁護士に送り返すんじゃ、いつまで経っても役所に婚姻届を出せねえじゃねぇかよ?」

——互いの戸籍謄本はすでに手元に届いてるってのによ。

   神宮寺の機嫌はすこぶる悪く、たった今大量殺人をしてきました、という極悪人の顔をしていた。

「それは……栞ちゃん次第だわ。とりあえず届を出しておいてじっくり契約内容を詰める、っていうのならすぐにでも婚姻届を提出しに行くけど?」

   そして、「どうする?」という目で、栞は二人から迫られた。


「えっと……あたし、たっくんと早く結婚したいので、先に婚姻届出してください」

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