契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 4

幽境 ①

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『……も、もしもし……』

   彼の「声」がスマホの向こうから聞こえてきた。若干かすれ気味ではあったが、落ち着いた低い声だ。

——うっわぁ、めっちゃ緊張するしぃ。

   赤ちゃんだったあの頃以来、初めて聞く「兄」の声だった。しかもその頃は、きっと声変わりする前だったはずだ。

——もしかして、あたしの本当ほんまのお父さんの声もこんな感じなんかなぁ……

   しおりも思い切って「もしもし」と応じようとして、口を開いたその瞬間——

   手にあったスマホの重みがふっと消えた。

——あれ?

   ピッ、という軽快な音が聞こえてきた。

——へっ?

   振り向くと神宮寺が、たった今だれかをぶっ殺してきました、という顔をして栞のスマホを握り締めていた。
   さらに、そのまま電源のボタンを長押ししたあと、ディスプレイを一回スワイプした。

「……栞、『事情聴取』が終わるまで、これは預かっておく」

——事情聴取?

智史さとふみって男のこと、じっくり聞くからな。……覚悟しろよ、栞」


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   それから栞は、二階にある神宮寺の書斎の奥の寝室ベッドルームに連れて行かれて、キングサイズのベッドの上に座らされた。

「え…えっと……『智史』っていうのは、兄の名前でして……」
   栞は後退あとずさりしながら答える。

「ウソつけ」

   しかし、間髪入れずに神宮寺から詰め寄られる。

「今までにその口から『姉』の話は聞いたことがあるが——『兄』の話はいっさいない」

   神宮寺は栞の肩をぐっ、と掴んで引き戻した。

「……もしかして、院時代から栞のことを狙ってた男か?」

「ち…ちゃいますよっ!大学時代も、院時代も、あたしみたいな魅力のないもんを狙うわけないやないですかっ⁉︎」

——あたしは、たっくんと違って、壊滅的にモテないんですっ!

   すると、栞の心の底を見透かそうとするかのごとく、神宮寺のアーモンドの目がすーっと細くなった。

「それとも、予備校でチューターをしているときの生徒か?」

——はぁ?

「栞はとてもその歳には見えねぇからな。女子大生がバイトしてると思われて、現役生や浪人生からチョッカイ出されてんじゃねぇか?」

——なんですかっ、そのたくましすぎる妄想はっ⁉︎

   さすが「小説家」だ、と栞は妙に感心した。

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