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Chapter 4
経緯 ①
しおりを挟むそれは、去年の初め、長年別居していた両親がとうとう離婚することになったというので、姉の稍が京都の町家に帰省したときのことだ。
いったいどこからその話になってしまったのか、今となってはもう栞には思い出せないが……
『……おねえちゃんも……あたしがおとうさんと血ぃのつながった子と違うって思うてはる?』
坪庭に面した奥の間で、取り込んだ洗濯物を一緒に畳みながら、まるで「今日の晩ごはん、なににしょう?」という口調で、栞は姉に尋ねていた。
稍はほんの一瞬、この世界が完全に止まってしまった、というような顔になった。
だが、すぐにふっ、と気のない笑みを浮かべた。
『栞ちゃん……それは、おねえちゃんの方はおとうさんと血ぃのつながった子や、っていう意味で言うてんのん?』
栞も姉と同じ笑みを浮かべる。
『うん、そう。違うのは……あたしの方だけ』
母親の方だけが同じ姉妹であるが、その笑顔はよく似ていた。
『……おねえちゃん、あたしの本当のお父さんのこと、知ったはるん?』
『あたしはまだ小学生やったからさぁ、覚えてることは限られてるねんけど……』
——おねえちゃんは知ったはるんや。
『あたしが小学校に上がる年に、神戸の家を買うて引っ越ししたんよ。そしたら、おかあさんの昔の同僚っていう人も偶然、同じ並びの家を買わはったらしくて……』
栞たちの母親は、結婚する前に神戸にある華丸百貨店で勤務していた。
『引っ越して何年かして、栞ちゃんは生まれてんけど、本当のお父さんは……その同僚の人の旦那さんとちゃうんかな、ってあたしは思ってる。
栞ちゃんはおとうさんには全然似てへんけど、その男の面影やったら、どことなくあるし』
栞は息を飲んだ。
自分はW不倫の両親の下に生まれた——「不義の子」だったのだ。
——えらい、やらかしはった人らの子ぉとして、生まれてきてしもうたなぁ……
『うちらのおかあさんは結婚して専業主婦にならはったけど、同僚の人は結婚してからもキャリアウーマンとして、バリバリ働いたはってなぁ……』
そして、こころなしか、稍の目が縁側の奥の坪庭を抜けて、もっと遠くのなにかを見つめるようになった。
『そこの家には男の子が一人おってんやんかぁ。あたしと、同い年の子ぉや』
——それって、もしかして、あたしの腹違いの「お兄さん」っこと⁉︎
「……青山 智史っていうねん」
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