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Chapter 3
告解 ①
しおりを挟む神宮寺は別に「この世には『生まれてきたらあかんかった子』なんていない」というキレイゴトを並べる気はなかった。
だが、涙を浮かべるでもなく淡々と話す栞を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。
だから、行為のあと、またG◯のルームウェアを身につけていた栞の肩をぐい、っと抱き寄せた。
「たっくん……あたしの母は……」
アメリカン◯ーグルのスウェットを着た神宮寺の胸に頬を寄せながらも、栞はやはり淡々と、まるで問わず語りのように話を続けた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
栞がまだ物心つく前に、母親は家族で住んでいた家から出て行った。
「……と言うても、阪神・淡路の震災に遭うて、家は跡形もなく倒壊したそうですけど。あたしは赤ちゃんやったんで、九死に一生を得たことをまったく覚えてませんけどね」
神宮寺にとっては生まれる前の出来事で、自分にとっての「震災」は東日本大震災だから、阪神大震災に関しては感覚的には「歴史」になっていた。
つい先刻まで思うままに抱いていた目の前の相手が、まさかそんな過酷な状況下で生き延びていたとは、思いもよらなかった。
神宮寺の栞を抱き寄せた手に、力が篭った。
とにかく——栞が生きててくれていてよかった、と素直に思えた。
「以前、姉からなんとなく聞いた話では、母は震災後すぐに、以前から不倫していた近所に住んでいた既婚者と二人で駆け落ちしたらしいんですけど……」
——はあっ、W不倫かよ?
「どうやら、その不倫相手の人が、あたしの——本当の父親らしいです」
——あぁ、だから自分のことを『不義の子』って言ったのか。
「まさか、おふくろさんは不倫相手と二人っきりで逃げたのか?自分たちの間に生まれた……栞を連れて行かずに?」
栞はこくり、と肯いた。
「あたしは姉と一緒に『父』に引き取られて、祖父母に預けられました」
——まるで「托卵」だな。ひっでぇことしやがるぜ。
そこで、初めて栞の顔が少しだけ歪んだ。
「あたしでも、姉に無理を言うて教えてもらう前から、父の血の通った子ぉやないって気ぃついてたんです。せやから、父も、亡くならはった祖父母も、そのことに気づいたはったと思います。せやけど、あたしは分け隔てのう育ててもらうどころか、大学院まで出させてもらいました」
「……栞……」
神宮寺はただしっかりと、栞を抱きしめてやることしかできない。
「あたしが生まれてきたことで、あたしの周囲のだれもが不幸な思いをしたはるんです。姉にも、子どもの頃からあたしのせいで寂しゅうて辛い思いをさせてしまいました。……去年、ようやく両親が離婚した際には、血の通わへんあたしが父方の姓をこのまま名乗るわけにはいかへんのを慮って、自分も母方の姓を選んでくれはりました」
栞は生気なく項垂れた。
「あたしが、この世に生まれてきてしもうたばっかりに……」
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