23 / 88
Chapter 2
醜聞 ⑤
しおりを挟む「……とにかく、早急には決めかねる。追って必ず連絡するから、今日のところは帰れ」
神宮寺がきっぱりと告げる。
「えーっ、わざわざこんな山奥くんだりまで追っかけて来たのに、ここに泊めてくれないんですか?……ひどいですよ、先生」
池原はレンタカーを借りて来たのだが、あの真っ暗な細い山道をまた運転するのかと思うと、ゾッとした。
「知るか。呼ばれもしないのに勝手に探してやってきたのは、そっちじゃないか」
神宮寺に取りつく島はない。
「……どうせ、佐久間さんに連絡して、どうするのか相談するんでしょ?」
池原は肩を竦めた。
まだ海のものとも山のものとも知れない高校生だった彼の才能を見い出し、作家・神宮寺 タケルを創り上げたのは「文藝夏冬の佐久間女史」であることは、重々承知しているが。
「佐久間じゃない。……『神崎』だ」
神宮寺がすかさず「訂正」する。
——そういえば、先生はずっと「佐久間」やなくて「神崎」って呼んだはるなぁ。
「あの人結婚されてから、もう五年ほど経ちますよね?うちの社でもすっかり『佐久間さん』で定着しましたよ?なにより、ご本人がそう名乗ってらっしゃるんですから」
結婚しても旧姓のままの女子社員が多い中、しのぶは嬉々として「佐久間」になった。
「うるさい、とっとと帰れ。これ以上言うのなら、君の社では書かないぞ」
吹き抜けのリビングに、神宮寺の地を這うような低ーい声が響く。
そのとき……栞はきょろきょろと部屋中を見回していた。
——あ、本当やぁ。そういえば、このログハウスにはどこにもテレビがなかったわぁー。
今さらながら、それに気がついたのだ。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
そのあと、池原を帰した(追い出した?)神宮寺は、すぐさましのぶに連絡した。
彼女は間がいいのか悪いのか、GWを京都市内で単身赴任している夫と過ごそうと思って、ちょうどこちらに来ていたのだが、到着した翌日にはもう神宮寺のいるログハウスに呼び出されていた。
「先生、なんで池原に栞ちゃんがアシスタントだっていうことを言わなかったんですかっ⁉︎」
激怒りのしのぶが、神宮寺に怒鳴った。
「まぁまぁ、しのぶさん、落ち着いて……」
栞はしのぶの前に、カフェオレを差し出した。
カップとソーサーはフッチェン◯イターの磁器、エステールのシリーズだ。さわやかなブルーで星の煌めきのようなモチーフが描かれているそのカップは、マグカップほどの深さがあり、しのぶがそれを気に入っていると聞かされていたので、すっかり「専用」になっている。
だから、昨夜池原が訪れたときには、栞は同じフッチェン◯イターでもシンプルなバ◯ネスホワイトの方を出しておいた。
さっぱりしていて姉御肌のしのぶを栞は頼もしく思い、ほわっとした「ど天然」の栞にしのぶは庇護欲を掻き立てられ、すっかりお互い名前で呼び合う仲になっていた。
ただ、このログハウスに来ていきなり、
『栞ちゃん、大丈夫?まだ、あの「遊び人」から処女は守れてる?』
と、真剣な顔で「安否確認」されるのだけは勘弁してほしいのだが……
おそらく——しのぶにも「ど天然」なところがあるのだろう。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる