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Chapter 2
醜聞 ③
しおりを挟む「コスパ度外視の文芸部がドル箱の週刊誌を黙らせるのには、なんといってもやはり人気作家の先生の『版権』なんですよ」
池原が栞に向かって、説明するように言った。
出版不況の昨今、出せば必ずベストセラー作家の争奪戦はすさまじい。
神宮寺の場合、単行本と文庫本という「一次収益」からテレビドラマや映画などの「二次収益」までも見込めるのだ。
「それに、弊社の先生の担当編集者である私としても、やはりそろそろ作家・神宮寺 タケルの新しい『代表作』を送り出すお手伝いをしたいですしね」
どうやら、文藝夏冬の担当編集者・佐久間 しのぶが神宮寺を「囲って」新作を書かせているのも、すっかりお見通しのようだ。
「それにしても、週刊誌が嗅ぎつけるのがえらく早くないか?」
神宮寺が鼻白む。栞がここに移り住んで一ヶ月も経っていないからだ。
「……君が、週刊古湖にネタを売ったんだろ?」
「先生、我々には情報源の秘匿義務がございますので」
池原は悪びれずにしれっと答えた。
「ところで……あなた、八木さん——八木 栞さんっておっしゃるんですよね?」
突然、池原が栞の名を口にした。
とたんに栞がびくっ、となった。まるで、小動物が毛を逆立てたような反応みたいだ。
「あぁ、お名前を確認させてもらっただけですよ?そんなに驚かなくても……」
池原がくくっ、と笑う。
名乗りもしないのに、見ず知らずの人から、いきなり名前を告げられる不快感が、この人にはわからないのだろうか、と栞は思わずにいられなかった。
「お顔を拝見して、お話を拝聴している限り、あまりそうは見えませんが……失礼ですけど、先生より歳上なんですよね?」
——失礼過ぎるわ。この人、こんな性格違うかったら、二〇代後半のすらっと背の高い、結構イケメンやのに。
人間関係ではバランス感覚を重視するてんびん座の栞でも、思わずカッと頭に血が上りそうだ。
「おい、池原。なにが言いたい?」
さすがに神宮寺が色をなして、池原をグッと睨む。
「いや、すいません。先生の『歳上好み』は相変わらずだな、と思ったもので。でも、五歳違いだったら、どうってことないですよね?」
しかし、相変わらず池原に悪びれる気配はない。
「確か……女優の八坂 今日子とは、九歳違ってましたっけ?」
池原は、神宮寺がかつて熱愛記事を書かれた相手の名を挙げた。
初めて映画化された作品で、ヒロインの担任教師役をしていた女優だった。
それまで付き合っていたヒロインのアイドル女優と破局するきっかけになった「本命恋人」だと騒がれて、週刊誌だけではなくネットでも話題となり、大いに「炎上」した。
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