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Chapter 2
風雲 ⑤
しおりを挟むこんな京都と奈良の県境の山奥にある「ぽつんと一軒家」のログハウスなんて、訪れるのはしのぶだけだった。
彼女の会社でも神宮寺がここにいるのはトップシークレットだからである。
京都市内の街中の、しかも昔ながらの薄い壁の町家で育ち、周囲に「音」があるのは「あたりまえ」だった栞は、ここに移ってきた当初、特に夜寝る際のあまりの静けさにびっくりした。
——うわぁ、ようマンガなんかで「シーン」って静まり返った場面に書いてあるけど、本当にそんな音ってあんねやぁ……
寝起きや私物を納めるために与えられた、二階の角っこにある六帖ほどの部屋のベッドの中で、栞はあまりにも「無音」だと、それすら音があるということを初めて知った。
そのくらい、人気のない家なのである。
栞はあわててインターフォンの受信機に駆け寄り、ボタンを押した。
『——先生……神宮寺先生、こちらにいらっしゃるのは、わかっているんですよ?』
男の人の声が聞こえてきた。モニターにもスーツ姿の男性が映っている。
「……だれだ?神崎か?」
神宮寺もインターフォンのパネルまでやってきて、栞の背後に立つ。
彼の一八〇センチ近くの上背に圧迫感を感じて、栞は縮こまった。
『先生、古湖社の池原です。こんな時間に失礼かとは思ったんですが……』
——「古湖社」っていえば、しのぶさんの文藝夏冬のライバル出版社とちゃうの⁉︎
「ふん、池原か。放っておけ」
神宮寺が興味なさげにつぶやいて、踵を返したそのとき——
『うちの週刊古湖で、また先生のスキャンダル記事が出ますけど——いいんですか?』
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