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Chapter 2
風雲 ④
しおりを挟むチーク材のダイニングテーブルに対面に座った神宮寺と栞は、今夜も黙々と夕飯を食べた。時間が合えば、こうして二人で食事をとる。
食べ終えたあと、神宮寺は必ず手を合わせて(口には出さないが)「ごちそうさま」をする。食べる前の「いただきます」のときもそうだ。
シンクに持っていくためにお皿を重ねていた栞は、不思議に思っていた。
「先生、見かけによらず礼儀正しいところもあるんですね?」
「……『見かけによらず』ってなんだよ?」
食べ終えたとたんタブレットを再開させていた神宮寺が上目遣いで、ぎろり、と栞を睨む。
——あ、「心の声」が出てしもうたわ。
「そういうのには祖母ちゃんがうるさくてな。うちは両親が仕事で忙しくて、おれは祖母ちゃんに育てられたようなもんだから」
栞の目が見開かれる。
「へぇ、そうだったんですね。あたしもそうなんですよ。うちはあたしが物心ついたときにはもう母親がいなかったので、祖母と姉が『母代わり』でしたね」
すると、今度は神宮寺の目が見開かれる。
「……お母さん、そんなに早くに亡くなったのか?」
栞は静かに首を振った。
「いいえ、亡くなってはいません。家を……出て行ったそうなんです。あたしはあまりにも幼かったので、事情はよく知らないんですけれど」
それを聞いて、神宮寺にしてはめずらしく、気まずそうな顔になった。
「悪い。余計なこと訊いたな」
一応、世間一般の人々が所有する程度のデリカシーは持ち合わせていたらしい。
「うちの祖母ちゃんはハンバーグもスパゲッティも作ってくれたけど、身体のために食えって煮物とかそういうのも必ず食わされた。……もう何年も前に、ガンで死んだけどな」
神宮寺の祖母の方はすでに鬼籍に入っていた。
「あぁ、せやからあたしの『お晩菜』も黙って食べてくれはるんですね?先生はお若いのに、めずらしなぁって思うてました」
栞は思わず京都弁になっていた。神宮寺やしのぶの前では、なんとなく標準語の方がいいかな、と思って遣っていなかったのだが……
ふとテーブルの向こうの神宮寺を見ると、なぜか虚を衝かれた顔をしていた。
「あっ、すいません、ついうっかりして」
栞はあわてて標準語に戻した。
世の中には関西弁を不快に思う人がいる。神宮寺がそういう人だったのかもしれない。
「なんで元に戻すんだ?その方がしゃべりやすければ訛っててもいい。それに……ここは京都だ」
——限りなく「奈良」やけどなぁ……
「それから……おれのことを『お若い』ってなんだ?」
神宮寺は今日一番の不機嫌な顔をしていた。
「五歳しか、違わないじゃないか」
栞は地雷を踏んでしまった、と思った。
神宮寺が著名な作家であることを、いつの間にか失念していたようだ。とりわけ神宮寺のようなプライドの高そうな男性を子ども扱いするようなことを言うべきではなかった。
「も、申し訳ありませんっ!あ、あたしそんなつもりじゃ……」
栞はダイニングチェアから立ち上がって、頭を下げた。
神宮寺の機嫌を損ねて、ここを追い出されたら……
——あたしには、行くところがあらへん。
するとそのとき、♪ピンポーン とインターフォンが鳴った。
——助かった!もしかして、しのぶさんが来はったんかも?
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