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Chapter 1
邂逅 ④
しおりを挟む神宮寺 タケルは、十七歳のとき史上最年少でファンタジー小説作家の登竜門「日本ファンタジー小説新人賞」を受賞した。
そして、たまたま編集者から渡されてそれを読んだ大ベストセラー作家の町下 秋樹が、瞠目して大絶賛した。
町下は純文学の登竜門・茶川辰之助賞を受賞してデビューすると瞬く間にベストセラーを連発し、その数年後に今度はエンターテイメント性が認められて植木四十五賞を受賞した。
すると、当然のことながらテレビや雑誌からオファーが殺到したのだが、彼は大の人嫌いで文壇にすらほとんど顔を出さなかった。
そのうち「幻の作家」と呼ばれるようになった。
その町下が、神宮寺の受賞作の単行本が出版されるにあたり、帯の推薦文を寄せるどころか自らの手書き文字を載せる許可まで与えたのだ。
発売された本は、いきなりベストセラーとなった。神宮寺は「超大型新人の高校生作家」として、一躍「時の人」となり、マスコミから引っ張り凧となった。
栞も学生時代、その処女作「空の蒼 海の碧 山の翠」を買って読んだ。
町下が本の帯に『恐るべき十七歳。三島の「潮騒」以来の衝撃だった。』と記したのも、むべなるかな、と思う内容だった。
ギリシア神話に通ずる世界観と、透明感のある静謐な文体が、確かに三島由紀夫の「潮騒」を彷彿とさせるものだったからだ。
——せやけど、そのあとは買うたことないなぁ……
神宮寺がそのあと、不遇の時代に入ったというわけではない。
受賞第一作として、高校生の純愛(不治の病に侵されたヒロインがラストで天に召されてヒーローが泣き崩れる系)を書いた。
同世代の作家が書いた「等身大の青春」ということで、その作品もまたベストセラーとなった。
さらに、今が旬の若い俳優たちをキャスティングしてフシテレビの月九でテレビドラマ化されて高視聴率を叩き出したのち、そのキャストのまま「なんでも引き受けるがきっちりと成果も出す」と評判の二池 嵩監督によって映画化されて空前の観客動員数を記録した。
中高一貫の名門男子校に通っていた神宮寺は、その頃すでに高校生ではなく、KO大学に進学していた。
しかし、「日本ファンタジー小説新人賞」の記者会見で、初々しくはにかみながら『こんな賞をもらえて、とてもうれしいです』と答えていた「少年」は、もうどこにもいなかった。
ドラマと映画でヒロインを務めた女優との「熱愛」を皮切りに、神宮寺は写真週刊誌やスポーツ紙の「常連」へと様変わりしていた。
栞が処女作以降、神宮寺の著書を買っていないのも無理はない。彼がここ最近出版しているのは、雑誌のコラムをまとめた「エッセイ」ばかりだからだ。
それでもやはり、出せばランキング入りしてしまうほどの売り上げなのは……
テレビの各局が、彼を「コメンテーター」として情報系番組へ引きも切らさず出演依頼するのは……
写真週刊誌やスポーツ紙が、彼の私生活の動向を追いかけ回すのは……
神宮寺の——その風貌のせいでもあった。
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