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Chapter 1
邂逅 ②
しおりを挟む「……ねぇ、あなた、車の運転できる?」
基本的には片道一車線だが、時折センターラインがなくなる道路を、しのぶが少し自信なさげなステアリングでアワアを走らせている。車は駅前の住宅地からどんどん離れて、いつしか山道になっていた。
「もう他界しましたが、祖父母の病院やスーパーへの送り迎えするのがきっかけで、免許を取って運転するようになりました」
たかがその程度では「運転できます」とは烏滸がましくて言えない「京都人」の栞は、婉曲的に答えた。
姉の稍が就職して上京してからというもの、気が抜けてしまったのか、まず祖父がめっきり弱くなった。そして、それまで狭い世間と祖父の顔色ばかり伺って生きてきた祖母の方も、あとに続いた。
結局は、自ら養護老人ホームへ行くと言って二人で入所した。京都の町家で生まれ育った彼らの最晩年は、洛外でマンションのような環境で暮らすことになった。
——もしかしたら、あたしがおとうさんの子ぉやないって、薄々気ぃついたはったんかもしれへんなぁ。
「この辺は車がないと自由に動けないらしいから、それならよかったわ。でも、こんなに狭くて時々センターラインもない道、大丈夫?」
しのぶが助手席の栞を、サングラス越しに横目でちらりと見て、すぐに前に戻す。
「このくらいのサイズの車なら、道幅はそんなに気にはならないですね。こんなに勾配はありませんが、京都の町家の路地もよく似たものですから。道端のガードレールは気にはなりますけどね。あと、街灯がほとんどないから、できれば夜は走りたくないですね」
「そう……もし、先生のアシスタントをお願いするとなれば、この車を使ってもらうことになるわ。だから、こういう環境でも運転しやすいサイズにしたの」
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
そして、車は別荘地にあるような切妻屋根のログハウスの家の前に着いた。
車から降りた栞は周囲を見回す。
——京町家のご近所さんとのつき合いには閉口してたけど、こないになぁ~んもないとこもなぁ。
鬱蒼とした雑木林に囲まれたそこは、まるでテレビでやっている「ぽつんと一軒家」のスタッフがロケハンに来そうな景色だった。
「八木さん、初めにお願いしておくけれど、今日先生に会ったことはだれにも言わないでほしいの。もちろん、インスタ等のSNSにアゲたりするのもダメよ。その場合、法的手段をとる可能性があることも覚えておいて」
「わ、わたし……イ◯スタしてませんしっ!絶対にだれにも言いませんっ!」
栞はあわてて弁明した。イ◯スタはおろかブログも書いたことがない。
学生時代から、ほわっとしてほっとけない雰囲気を醸し出す栞に、話しかけてくる人は結構いて彼らとはそれなりに話は合わせるが、本当に心を開いて親しくなる相手となると、とたんにハードルを高くしてきた。
だから、L◯NEの「友だち」に登録されている数は三〇人いるかいないかだ。栞の年頃では圧倒的に少ないと思う。
「そう、じゃあ……行くわよ。ついてきて」
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