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Chapter 1
邂逅 ①
しおりを挟む栞は生まれた地こそ神戸であったが、物心がついたときにはもう、京都の「市内」に住んで現在に至っているわけなので、自らはすっかり「京」の人だと思ってはいる。
だからと言って、北の方で元は丹後国にもかかわらず「京◯後市」と名乗ろうが、南の方で元は山城国にもかかわらず「京◯辺市」と名乗ろうが、今の御世では「京都府」という大きな括りの中で存在しているのだから、「市内」で生まれ育ったのを錦の御旗にしてあれこれ言う人を見ると「さもしいわぁ」と思っていた。
(そういう人に限って「この国にとっての直近の戦争は?」と聞かれたときに、昭和の「太平洋戦争」ではなく幕末の「蛤御門の変」と答えるのだ。)
しかしながら、アシスタントとして雇ってくれるかもしれない作家との面接に臨むため、佐久間の妻から向かうように指示された駅名を聞いたときには、息を飲んだ。
近◯京都線の高◯原駅だったからだ。
そこが、作家が東京から「京都」に移り住んだ先の最寄り駅だという。
さすがの栞も……
——「京都」って言うたはらへんかったっけ?京◯辺どころやない。完全に奈良やんかぁ。
と、思ってしまった。
その駅の背後にはイ◯ン高◯原店があり、そこはスーパーマーケットの店内であるにもかかわらず、床に京都府と奈良県の境がでかでかと引かれているので知られていた。
駅は京都府木◯川市側にあるのではなく、奈良県奈良市側にあった。山城国どころか、大和国である。「京の都」からはすっかり離れた畿内だ。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
近◯電車の橿◯神宮前行きの急行が高◯原駅に到着し、西◯寺方面行きのホームに降り立った栞は、駅前のロータリーに向かった。
何台か駐車していた車の中にTOMITAのハイブリッドカー・アワアが停まっていて、すでに佐久間の妻が外に出て待っていた。
彼女が何度か夫の研究室を訪ねた折に顔は見知っていたので、栞はあわてて小走りで駆け寄った。
「……す、すいませんっ!」
ブラックマイカのアワアのドアにもたれ佇んでいた佐久間の妻が、栞の姿を認めるとサングラスをくいっと額の上に押し上げた。
「あわてなくていいのよ。あなたがうちの夫が言ってた方ね?佐久間 しのぶです。よろしくね」
彼女はそう言って、美しく微笑んだ。
一六〇センチの栞とはさほど変わらない背丈なのに。エ◯カのボウタイのシャツブラウスとやわらかい素材のフレアパンツは何気ないものなのに——しのぶは、いかにも洗練された「都会のオンナ」に見えた。
「は、はい、そうです、八木 栞です。こちらこそ、よろしくお願いします」
栞はG◯で何気なく買ったTシャツとデニムパンツの自分が、とたんに恥ずかしくなった。
『「面接」と言ったって、ハウスキーパーをしてくれる人を探しているわけだから、服装は動きやすいものでいいらしいよ。大学に通うときみたいな格好でいいんじゃない?』
と言った彼女の夫を、栞は恨んだ。
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