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Prologue
求職 ①
しおりを挟む父親が突然、再婚することになった。
再婚相手は、栞の小学校からの同級生で親友の浅井 結花だった。
結花はすでに妊娠していた。
隣近所は今のところ変わった様子はないが、陰から全方位に照準を合わせてばっちりガン見されている土地柄なので、バレるのも時間の問題だ。
だから、これを機に今まで住んできた京都の町家を引き払って、若い頃実家を出て住んでいた神戸に引越しする、と父は言った。
父にとっては幸いなことに、先祖代々家を守ってきた自身の父母——栞にとっては祖父母だが——すでに二人とも他界していた。
たぶん、こんな一人息子の行状に、草葉の陰で号泣しているだろうが。
さらに、結花の両親——特に父親が激怒して「子どもなんか堕ろしてしまえっ!」と喚き散らしていて、とても許してもらえる雰囲気ではないらしいのも、結花を連れて京都を離れるのを後押ししている。
しかし、結花の父親がそうなるのも無理のないことだ、と栞は思う。
結花の年齢はもちろん、自分と同じ二十七歳である。
栞は父親が三十二歳のときの子どもだった。つまり、それが結花との年齢差にもなる。
一生、増えもしなければ減ることもないのだ。
京都では知らぬ者がいない「お嫁さんにしたい」女子大を卒業して、地元が誇る日本有数の下着メーカーに就職した結花が、婚約秒読みまでつき合っていた同僚に浮気されて、別れたのは聞いていたが。
——まさか、その「次の相手」が、うちのおとうさんやったやなんて……
結局、耐えかねた結花が、泣きながら栞の家に駆け込んできて、そのまま居つくことになった。
もちろん、隣近所にはすっかりバレた。
一番困り果てたのは、栞だ。
ご近所さんたちの、冷ややかな中にも好奇心に満ちた眼差しに辟易するのもあるが。
(ちなみに、彼らから面と向かって父たちのことを尋ねられることは絶対にない。)
——やっぱし「新婚さん」と一緒に暮らすのは、きっついわぁ。京都を離れて神戸に行くのもイヤやし。
今東京に住んでいる姉の稍とその婚約者とならまだしも、父親と(友達とはいえ)ものすごく若い新妻となのだ。
もし、目の前でイチャつかれたりなんかしたら、目のあてようがない。
もちろん、父の巧は娘の前でそんな素振りを見せはしないが、やはり結花からはそこはかとなく「気配」が漂ってくる。
オンナっていうのは、好きな男ができれば、友達なんてどうでもよくなるものだ。
——それに、結花はまだ知らへんのやろうけど……
あたしとおとうさんは……血ぃのつながりがあらへんし。
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