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③
しおりを挟む南島と北島の間の海底は擂鉢状になっている。中間付近のやや北島寄りが一番深く、いっとう流れが速かった。
二人の若衆は、激しく押し寄せる波の中で、追いつ追われつしながら、ひたすら北島を目指した。
途中、マヤーが艪を漕ぐ舟が、そんな彼らを横目で見ながらすーっと通り過ぎていった。一足先に北島へ着いて、彼ら若衆たちを出迎える準備をするためだ。
さすが網元の娘だけあって、舟の操り具合はその辺の男衆よりよっぽど器用だった。女に生まれついたのは、幼い頃より周囲から残念がられていた。
彼女自身も、女ゆえに漁に出られないことを口惜しく感じていた。
マヤーの姿を見て勢いづいたクガニイルが、ティーラよりも身体半分出た。
そして、そのまま一気に引き離す戦法をとった。
瞬く間に、彼らの間が開いていく。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
前方を進んでいたマヤーが、いきなり後ろを振り返って手を上げた。
そして、それまでまっすぐ進ませていた舟の舳先を西の方向に変え、眼前に迫った北島をぐるりと迂回するような海路をとった。
すると、今度はティーラが今までまっすぐに泳いできた体勢を東方向に翻し、やはり眼前に迫った北島を迂回するように泳ぎだした。
クガニイルだけが、今までと同じく、まっすぐな進路をとった。
それが誤りだったということに気づくのは、間もなくのことだった。
北島の海岸にに近づくと、今度はとたんに浅瀬になる。潮の流れが、先刻までと打って変わって、急に穏やかになった。
激しい流れと穏やかな流れの境目は、急激な変化に耐えられなくなった海潮が、途方に暮れて暴走を始める。
それが——渦潮である。
クガニイルはまんまと捉まってしまった。みるみるうちに、渦に呑み込まれていって、姿が見えなくなる。
マヤーは悲鳴をあげて、あわててそちらへ向かおうとした。
だが、舟ごと渦に巻かれると自分の命も危うくなるので、どうすることもできなかった。
ティーラも背後の気配で、クガニイルが渦潮に巻き込まれたことを察した。
すぐさま踵を返し、水面から顔を出して大きく息を吸ったかと思うと、たちまち海底深く潜っていった。
海の中へ消えていった二人の若衆を、マヤーは固唾を飲んで見守るしかなかった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
逆巻く潮の流れに身体を持っていかれないように、ティーラは様子を伺いながらクガニイルの方へ近づいていった。
だが、海水の中は無数の泡が視界を遮る。
ティーラは澄んだところを探しながら、次第に深く深く潜っていった。
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