大江戸シンデレラ

佐倉 蘭

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大詰

幕引〈陸〉

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「なっ、なんだとっ」

   力なく伏し目がちであった兵馬が、瞬く間に勢いを取り戻す。その目はたった今、火が放たれたかのごとくにわかに熱を帯び始めた。

「島村とやらは、なにゆえにそないなことを……」

   しかしながら、ればかりは当人に聞かねばわかるまい。

「祝言のときは綿帽子の陰でまったく『旦那さま』のお顔は見られでなんしゆえ、若さまであることを知りなんしたのは……夜になって寝所に参ったときでありんす」

「そうか……それで、そなたはねやであの同心の名を呼んでおったのか……」

   ようやく、合点がいった。


   だが、兵馬には訊きたかったことがもう一つあった。

「そなたは、青山緑町の御前様を知ってござるか」

   安芸国・広島新田藩の三代藩主、浅野 近江守おうみのかみのことである。

「存じておりんす。御前様は見世では姉女郎の娼方あいかたでなんしたゆえ、妹女郎のわっちらも贔屓にしておくれなんした」

「そうか……御前様は畏れ多くも、うちの父の昔馴染みであらせられる。ゆえに、それがしのこともご存じでござる」

「……さようでありんしたか」

——若さまとは、こないに生まれの違う者同士であるというに……

   美鶴は、兵馬との間に「縁」のごときものを感じた。


   それから、兵馬がしみじみと云った。

「さようなことが……あの頃のそなたの身に起きてごさったか……」
   
   そして、あの夜我が身がなにゆえ一晩中待ちぼうけを喰らわされたかの顛末でもあった。

「そう云えば……」

   兵馬は肝心かなめを失念していたことに、今さらながら気づいた。

「そもそも、そなたとの縁組は御前様から来た話であったな」

   同じ組屋敷界隈で手を打つことが多い縁組の中で、やはり兵馬と美鶴は異例過ぎた。

「うちの父は、そなたの身請けの件も御前様がなにゆえ我らの縁組に関わったのかも、存じてござろうか……」

「……祝言の翌日、わたくしが御舅上ちちうえ様にお会いして聞き及んだことがござりまする」

   なぜか、美鶴の物云いが「武家の妻女」のものに変わり、顔つきも堅くなった。


「旦那さまの想い人が……『玉ノ緒』だと云うことでございまする」

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