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大詰
幕引〈肆〉
しおりを挟む「ならば……」
兵馬は眼光鋭く、美鶴を見据えた。
「祝言の終わった日たった一度こっきり……しかも、あんな夜目の暗がりでしか見たことのないはずのおれを……」
まるで、捕物の御用で下手人を追い込んでいくかのごとく畳みかける。
「おめぇは 先刻たった一目見ただけで——なにゆえ『旦那さま』だって判ったんだよ」
「そ、それは……」
しくじった、と美鶴は思った。
百戦錬磨の奉行所の町方役人である兵馬に、海千山千の廓で育ったとは云え所詮は「箱入り」であった美鶴の嘘が罷り通るものではなかったのだ。
「そなたは……」
兵馬の物云いが武家の其れに変わった。
「そないにしてまでも、あの同心を庇うのか」
美鶴の顔から、さーっと血の気が引いていく。
今度こそ、もう我が身の命はないであろう。怒れる兵馬の太刀で一刀両断、叩っ斬られてもおかしゅうない。
美鶴は覚悟した。
——かくなるうえは、廓育ちの妓としても……武家の妻女としてに嫁いだ身としても……
いずれにせよ、口を割るつもりはない。
せめて潔く、見苦しゅうない「最期」にせねばならぬ。
されど、そのとき——
「某は『あの夜』……明け方近うなるまで……そなたのことを待っておったというに……」
噛み締めるようにつぶやいた兵馬の声が、美鶴の耳に届いた。
——やはり、あの夜……若さまは、わっちを待っていなんしたかえ……
思わず漏れ出たと思われる兵馬のその声を聞き、美鶴はとうとう観念した。
「……申し訳……ありませぬ……若さま……」
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