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大詰
口上〈漆〉
しおりを挟むその後、帯刀は兵馬に向かって、
『無情にも、おまえは祝言を挙げたばかりの嫁御を放っておく気かっ』
さんざん窘めたが、やはり喉から手が出るほど欲する「話の種」には勝てず……
『やむを得ぬ……好きにしゃあがれ、この野郎っ』
吐き捨てるようにさように告げ、渋々承諾するほかなかった。
兵馬はしばらくの間、佐久間の御家に身を寄せ、其処から出仕することと相成った。
このことは、佐久間の家内の者たちには『他言はするな』と固く口止めされた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
そして今、兵馬は奉行所での御役目の合間を縫って、密かに吉原の面番所を訪れていた。
「そいで……頼んでた『舞ひつる』のことだけどよ」
早速、岡っ引きの伊作に頼んでいた件を尋ねる。
「あっ、訊いてきやしたぜ。流石に久喜萬字屋の者は口が固ぇから、見世をよく知る周りの者に喋ってもらいやした」
それから伊作は、祖母・母親が二代続いた吉原の「呼出(花魁)」で、舞ひつるは祖父の顔も父親の顔も知らぬとは云え、どうやら二人ともお武家であるらしいなど、訊き込んで知り得たことを話した。
「そうか……そんで、まだ振袖新造として見世に出てんのかい」
あの待ちぼうけを喰らった大川の川開きの夜から、すっかり暦は巡っていた。
舞ひつるが、いよいよ春を鬻ぐ「遊女」として、いつ座敷に出されていてもおかしくなかった。
「いや……それが……」
伊作の顔が、にわかに曇った。
「舞ひつるの姿が、まるで神隠しにでも遭ったみてぇに……ぷっつりと、この吉原から消えてんでさ」
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