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七段目
来今の場〈弐〉
しおりを挟む祝言を終えた美鶴は、また女中に手を引かれて花嫁御寮の支度をさせられた座敷へと連れてこられた。
そして、待ち構えていたおなごたちによって髪も化粧も着物もすっかり元の様に戻された。
その後、屋敷の裏口から門外に出されると、其処には駕籠が一つだけあった。
花婿である広次郎の姿は、祝言の場以来見ていない。おなごと違って男は、紋付きの羽織袴以外には此れと云った支度がないゆえか、おそらくは先に家路に着いたのであろう。
促されるまま美鶴が中へ乗り込むと、すぐさま筵が引き下ろされた。
駕籠舁きの掛け声とともに身が浮き上がったと思うと、再び掛け声がしてゆっくりと歩み出した。
道中、駕篭の天井から垂らされた紐を両の手でしっかりと握りしめて我が身を支えつつ、美鶴は思った。
——本日此れよりは、島村の御家にて、広次郎さまを交えて住むことになりなんしかえ……
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
やがて駕籠が止まって、地面に下ろされた。垂れていた筵が捲り上げられる。
未だ駕篭に揺られている心地はすれども、立ち上がればくらりと目眩を起こしそうになるのを励まして、美鶴はゆっくりと外へ出た。
目の前の家屋を見て、美鶴の目が見開かれた。
——此処は……島村の御家ではあらでなんし……
先刻までいた御殿のような御屋敷に較べると見劣りはするが、裏門にもかかわらず島村の家の正門より立派な門構えである。
——もしかすると……広次郎さまの御実家なのかもしれなんし……
とすれば、代々内与力の御役目に任ぜられた御家である。
御公儀より与力に与えられる家屋が、同心のものとはかけ離れた広さであることは、指南役の刀根から聞き及んでいた。
「……御新造さん、どうぞ入っておくんなせぇ」
門の前で控えていた女中が告げた。一重の細い目の、のっぺりとした目鼻立ちをした中年の女だった。
——『御新造』……
武家の中でも御家人の妻に対する呼び名で呼ばれた。
今の美鶴はすでに眉を剃り落とし、お歯黒をつけ、丸髷に結った髪になっているはずだ。
それは「人妻」の形で、だれが如何見ても……もう「娘」には見えまい。
——わっちは……いえ、わたくしは……もう「武家の妻」にてござりまする。
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