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四段目
身請の場〈陸〉
しおりを挟むそして、兵馬は改まった口調で告げた。
「此度、御公儀よりの御達しを受け、某の吉原での御役目が恙なく御免となりてござる。よって、以後は奉行所内での与力の御役目を仰せつかることになり、町家での御用向きは同心たちに任せることになろう。しからば、そなたと相見えることは……もう、二度とあるまい」
天から放たれた雷に……我が身をまともに打ち抜かれた……と、舞ひつるは思った。
あまりのことに——声も出ない。
団栗眼になっている目を、さらに見開き……口もぽかんと開けて……
まったくの虚けた顔になっていた。
されども……
兵馬がお武家で……それも、数多の同心を束ねる御役目を担う、与力の御家の御曹司で……
いつまでも吉原におられるお人ではない、ということは……
——初めから、判っとりんしたはずでなんし……
それに、舞ひつるもまた、近々、身請けされる定めにあった。
しかも、当人ですら、何処に落籍かれて行くのか知らされていない。
玉ノ緒の場合とは異なり、なぜか見世からはきつう口止めされているのだ。
ゆえに、兵馬には——告げるわけにはいかぬ。
兵馬と舞ひつるは、じっと身じろぎもせず、互いを見つめ合っていた。
……武家の男と廓の妓。
そもそも、身分の違う二人にもかかわらず、かように人の目を盗んで逢って話をすることさえ、世間の道理に外れた赦されぬことだ。
万に一つも交わりっこない道を、兵馬も舞ひつるも各々歩んでいた。
しばしの沈黙のあと、苦しげに押し殺した声で、兵馬が問うた。
「大川の『川開き』の日に……最後に、そなたと逢うことはできまいか」
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