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二段目
邂逅の場〈参〉
しおりを挟む兵馬の父もまた、その父——つまり兵馬の祖父で、与力を束ねる総元締めでありながら南町奉行を一番お側で支えねばならぬ御役目の「年番方与力」を勤め上げた松波 源兵衛に云われて、十五でこの地に降り立っていた。
父の多聞は若かりし頃、美丈夫な容姿と鯔背っぷりな気質が巷で評判となり、勝手に浮世絵にものされた挙句に「浮世絵与力」と呼ばれ、歌舞伎の演目になるまでの人気だった。
兵馬はさような多聞に瓜二つと云われている。
「生まれ育ち」に「見て呉れ」までも極上とあらば、羨ましがられるだけでなく、自然とやっかみも多くなる。
ゆえに兵馬もまた、あの頃の父のように、表ではつつがなく多聞と接している同心たちが陰では忸怩たる思いであろうと察して、いつも一人で人気のない裏通りを巡っていた。
そして、一目で与力だとわかる裃の肩衣はつけず、着流しに袴姿で歩いていたら、かような場に居合わしたのだった。
「されども……忙しない見世の者に、毎日供に付いてもらうのは……」
生まれてこの方、かように御堂にお参りすること以外には陽の当たらぬ暮らしをしてきた舞ひつるにとって、たとえ束の間であろうと、一人きりになって人心地のつく刻であったのだが。
——また、あないな思いをするのは……
舞ひつるは、しょんぼりと俯いた。
燈籠鬢の島田髷に結われた頸から覗く肌は、文字どおり透けるがごとく真っ白だ。
見世の中には町家どころか武家でも滅多とない風呂があるため、わざわざ湯屋へ通うこともなく、また歌舞音曲のお師匠さんたちだって通いで稽古をつけに町家から吉原に通ってくるから、その賜物である。
もちろん、湯屋や稽古を口実にして遊女たちに「足抜け」されてはたまったものではないから、というのが見世の算段なのだが……
すると、父親譲りの面立ちで兵馬は、にやり、と不敵に笑った。
「……いいことを思いついたぜ」
舞ひつるは何であろう、と兵馬を見た。
「おれが、おめぇさんの『供』になってやるよ」
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