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二段目
明石稲荷の場〈弐〉
しおりを挟むお参りを終えた舞ひつるが、小堂を出て久喜萬字屋へと戻る道に足を向けた、そのときだった。
「……えれぇ別嬪な女子がおるな」
目の前に、ばらばらっと五人の男たちが現れた。
歳の頃二十歳くらいの彼らは、剣術の稽古に通うような着流しに袴姿の出立ちであった。お武家の子弟たちだ。
——厄介な者たちに御目通りしなんし……
舞ひつるの臈たげな顔が、すーっと曇る。
吉原は御公儀がお墨付きを与えた唯一の遊郭であったため、大門をくぐった左手に面番所が設けられていた。
其処には、御役目に就く町方役人の隠密同心と、その手足となって動く岡っ引きや下っ引きたちが詰めている。
そして、この時分にはしばしの間、同心の子弟たちが「見習い同心」としてやってきていた。
見習いとしてさまざまな御役目を順繰りに廻っている最中なのだが、生まれたときから世間の波を被ったことのない子弟たちは、苦界と云われる吉原に身を沈める妓たちをあたかも塵芥のごとく蔑んだ目で見た。
そのうえ、上役の目の届かぬところではなにかと狼藉を働いていた。
吉原じゅうの者がこの者たちに閉口していたが、道理のわかる年嵩のお武家ならいざ知らず、かような世間知らずどもはおのれの矜持を守るためなら御家の後先なぞ顧みず、にわかに腰から太刀を引き抜いて「切り捨て御免」とやるやもしれぬ。
とにかく、触らぬ神になんとやら、という連中であった。
「……おい、女郎。齢十四・五だろうが、おまえ女郎だろ。もう見世には出ておるのか」
そのうちの一人が、ずいっと一歩前に出て、舞ひつるの行く手を阻んだ。
樹木に目隠しされた御堂の周囲は、路地裏どころか人気のほとんどない、吉原の端の端である。
——声をあげたとて、果たして気のつく者がいるかどうか……
廓では、たとえ御大名や豪商であっても振袖新造に手を出すのは御法度だ。初見世では不老不死の「縁起物」である振新の「初物」を散らせるからこそ、御大尽が大枚を叩くのである。
ゆえに、振新は必ず「生娘」でなくてはならぬ。
もし、その前に生娘でなくなってしまったら、あとに続く女子たちへの見せしめのためにも、即刻一階の廻し部屋が「初見世」となり、呼出への道もすっぱりと絶たれてしまう。
物心ついて以来、歌舞音曲はもちろん和漢書に狂歌に川柳と、厳しいお師匠さんの下で精進してきた日々が、海の藻屑のごとく無駄になる。
今まで御堂へ通うのに、見世の男衆もつけずについ「一人歩き」をしていたおのれを、舞ひつるは激しく悔いた。
——お内儀さんからはあないに『一人で行くな』と云われなんしたのに……
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