それからの日々

佐倉 蘭

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それまでの日々

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   それまでのみどりの人生は「流される人生」だったと思う。

   高校三年生のとき、短大でも受験しようと思っていたのに、友達と一緒にたまたまある百貨店デパートから来ていた求人の校内選考を受けたら選ばれてしまったため、卒業後は就職することになった。

   また、必ず相手から告白されてつき合うパターンだった。
   中でも一番強引だったのが、のちに娘のの父親となる「夫」だった。

   プロポーズされたあと、京都の旧家である彼の家に挨拶に行くと、みどりが高卒だという理由で猛反対された。
   みどりは致し方ないと思って別れようと思ったが、彼は困難であればあるほど逆に燃え上がり、実家とは縁を切った。

   みどりは入籍すると、会社を寿退職して専業主婦になった。すぐに上の娘が生まれて、家事に育児にと目まぐるしく毎日を過ごしていた。


   一方、「彼」の方も同じような人生だった。

   幼い頃から、勉強して新しい知識をどんどん吸収していくのはちっとも苦にならず、むしろおもしろかった。受験勉強を勝ち抜いて名門と呼ばれる学校へ進むのも、ゲーム感覚で「クリア」していった。

   容姿も悪くない方だしスポーツもそこそこできるから、女の子は向こうから勝手に告白してきた。かわいい子だったら、どんな子なのかはよくわからなくても一応「OK」してつき合った。

   のちに結婚することになる「妻」も、そんな中の一人だった。
   出会ったとき短大生だった彼女は美人で華やかで、友達に自慢できた。

   そんな彼女と結婚したのは、避妊に失敗して妊娠させてしまったからだ。

   だけど、当時一般職から総合職への試験を突破した彼女はキャリアウーマンの先駆けとして仕事に没頭していたし、自分たちはそういう「きっかけ」でもない限り、結婚することはないだろうと思っていた。

   子育ては正直不安もあったが、生まれてきた子は自分にそっくりで、心からかわいいと思えた。


   そんなふうに、人生はこのまま過ぎて行くものだと思っていた。

   だが、人生で初めて、心を揺さぶられる「相手」に出逢ってしまった。

   なにがきっかけだったかなんて、お互いもう覚えていない。
   ただ気がつけば、いつも「目」が追っていた。

   そして、いつしか……その「目」が相手と合った。

——「出逢ってしまった」としか、言いようのない相手だった。

 
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