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Last chapter

決壊 ①

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   智史は深いため息を一つ吐いた。

「……GWに神戸へ帰った最後の日、仕事のためにおまえと別行動したとき、海外の取引先との交渉が終わったあと、新神戸に行く途中で役所に出しに行った。おれもおまえも本籍地が神戸やから、婚姻届だけですぐに受理してもらえた」

   稍は俯いて、うなだれた。

   そんな稍の様子を見て、智史は顔を曇らせた。

「おれと入籍したのがそんなにイヤなんか?せやったら……婚姻届の無効の申請するか?」

   稍は、ばっ、と顔を上げた。その瞳には、あふれんばかりの涙が込み上がっていた。

「……ずるいよ、智くん。勝手に出すだけ出しといて、今さら……」

   稍の瞳からは、とうとう涙があふれる。

「婚姻届を出すって……正式に結婚することやんか……そんな大事なこと……智くんだけで決めて……なんで……あたしには……なんにも言うてくれへんの?」

   そして、稍は声を振りしぼるように叫んだ。

「それに、婚姻届のことだけやないっ!智くんはあたしになにも言わんと、いつも勝手すぎるっ!」

   稍はせきを切ったように話し出した。

「智くんの家に呼びつけられたらいきなり掃除されられて、挙句に一緒に住むことになったりっ、復讐のための『偽装結婚』やって言われて、GWにいきなり神戸に連れて帰られたりっ、派遣切りやと思ってたのに、会社に連れて行かれたら突然嘱託社員になってたりっ……」

   稍の剣幕に、智史はなすすべもなく、目を見開いて固まっている。

「まだあるっ」

   稍は息を大きく吸った。

「智くんが社長から期待されてる『本来の仕事』のことも、そのために異動を急かされてることも、なぁんも知らんかったっ。せやから、この『偽装結婚』は智くんが異動するまでやと思った。せやから、今度こそ会社におられへんくなると思うて、一人で生きてくために資格取らなあかんなって……」

「稍……悪かった……すまん……ごめん」

   我に返った智史が、手を伸ばして稍を引き寄せようとする。

「所詮……あたしなんか、その程度にしか思われてへんってことやんかっ!」

   稍は智史の手を振り払った。

「あたしと『偽装結婚』を解消したら、社長に勧められた『御令嬢』とちゃんと正式に結婚するんや、って思ったら……悲しくってつらくって……」

「御令嬢?何の話や?……ってだれや、それ?」

   智史がきょとんとした顔になる。

「ややはこんなに……智くんのことが好きで……だいすきやのに……」

   思わず、言ってしまった。

「『御令嬢』と結婚したら……あたしみたいな『セフレ』とはたまに会ってセックスするだけの関係になるんやろうな、って……」

「ちょっと、待て。いつおまえがセフレになったんや?」

   腑に落ちない顔をする智史を見て、
「ややは……セフレでもなかったんやっ!?麻琴ちゃん以下の立場やったんやぁっ!どうせあたしは『本命女』のときでも必ず浮気されてたオンナやったわよぉっ!」

   稍はわああぁっ、とベッドに突っ伏した。

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