147 / 150
Last chapter
決壊 ①
しおりを挟む智史は深いため息を一つ吐いた。
「……GWに神戸へ帰った最後の日、仕事のためにおまえと別行動したとき、海外の取引先との交渉が終わったあと、新神戸に行く途中で役所に出しに行った。おれもおまえも本籍地が神戸やから、婚姻届だけですぐに受理してもらえた」
稍は俯いて、うなだれた。
そんな稍の様子を見て、智史は顔を曇らせた。
「おれと入籍したのがそんなにイヤなんか?せやったら……婚姻届の無効の申請するか?」
稍は、ばっ、と顔を上げた。その瞳には、あふれんばかりの涙が込み上がっていた。
「……ずるいよ、智くん。勝手に出すだけ出しといて、今さら……」
稍の瞳からは、とうとう涙があふれる。
「婚姻届を出すって……正式に結婚することやんか……そんな大事なこと……智くんだけで決めて……なんで……あたしには……なんにも言うてくれへんの?」
そして、稍は声を振り搾るように叫んだ。
「それに、婚姻届のことだけやないっ!智くんはあたしになにも言わんと、いつも勝手すぎるっ!」
稍は堰を切ったように話し出した。
「智くんの家に呼びつけられたらいきなり掃除されられて、挙句に一緒に住むことになったりっ、復讐のための『偽装結婚』やって言われて、GWにいきなり神戸に連れて帰られたりっ、派遣切りやと思ってたのに、会社に連れて行かれたら突然嘱託社員になってたりっ……」
稍の剣幕に、智史はなす術もなく、目を見開いて固まっている。
「まだあるっ」
稍は息を大きく吸った。
「智くんが社長から期待されてる『本来の仕事』のことも、そのために異動を急かされてることも、なぁんも知らんかったっ。せやから、この『偽装結婚』は智くんが異動するまでやと思った。せやから、今度こそ会社におられへんくなると思うて、一人で生きてくために資格取らなあかんなって……」
「稍……悪かった……すまん……ごめん」
我に返った智史が、手を伸ばして稍を引き寄せようとする。
「所詮……あたしなんか、その程度にしか思われてへんってことやんかっ!」
稍は智史の手を振り払った。
「あたしと『偽装結婚』を解消したら、社長に勧められた『御令嬢』とちゃんと正式に結婚するんや、って思ったら……悲しくってつらくって……」
「御令嬢?何の話や?……ってだれや、それ?」
智史がきょとんとした顔になる。
「ややはこんなに……智くんのことが好きで……だいすきやのに……」
思わず、言ってしまった。
「『御令嬢』と結婚したら……あたしみたいな『セフレ』とはたまに会ってセックスするだけの関係になるんやろうな、って……」
「ちょっと、待て。いつおまえがセフレになったんや?」
腑に落ちない顔をする智史を見て、
「ややは……セフレでもなかったんやっ!?麻琴ちゃん以下の立場やったんやぁっ!どうせあたしは『本命女』のときでも必ず浮気されてたオンナやったわよぉっ!」
稍はわああぁっ、とベッドに突っ伏した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
153
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる