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Chapter 11

危機 ③

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   その翌週の金曜日の夜、稍は山口に連れられて、海外でも有名な系列のホテルにあるバーにいた。落ち着いた雰囲気の典型的な「オトナの宿り木」的な店である。

「……ここ、雰囲気いいでしょ?麻琴さんに教えてもらったんですよ」

   山口が得意げに言った。

「腹減ってませんか?すいません、取引先から戻るのが遅くなってしまって」

   稍は首を振った。一度家に帰って軽く食事してから、また会社に戻ったのだ。
   智史には今夜は沙知とごはんを食べに行くとウソをついた。

   なぜか最近、智史が甘い。会社でもふとしたときに「青山」から「智くん」になる。家ではなおさらだ。

   智史は今夜、社長をはじめとするお偉方えらがたとの会食だった。十月からの情報システム部の方針について話し合うためである。

   もちろん、それを知っていて山口は稍を誘ったのだ。

   目の前のバーテンダーからオーダーを訊かれる。杉山だった。今日はカウンター席である。

   この時間は席もほぼ埋まっていて、稍は一番奥のハイスツールに座っていたが、山口の隣までスーツ姿の男性たちがずらりと腰を下ろしていた。

   ほかにも二人バーテンダーがいたが、彼らは杉山の指示で動いていた。だから、今夜の杉山はカウンターの内側で、流れるようなさまではあるが、左右にせわしく動いている。

   山口はハイボールを頼み、稍には「彼女のイメージに合ったカクテルを」と勝手にオーダーする。

——おかしいなぁ。麻琴ちゃんと同じことしてるのに、まったくオチる気がしない。

   杉山が稍に「苦手なものはありませんか?」と聞き、稍が首を振る。
   彼は「かしこまりました」と口元にかすかに笑みを浮かべて下がった。


「……ややさん、よこしまな気持ちであなたを誘ったのではないことをわかってほしい」

   山口が真剣な表情で話す。

「初めてあなたを会社の創立記念パーティで見たとき……この人だ、って思ったんです」

——「初めて」は四月の初めの初出社のとき、なんだけどなぁ。

「ややさん、青山さんと別れて、おれと一緒に大阪についてきてくれませんか?」

——はぁ⁉︎

「あんな鉄仮面で朴念仁な青山さんより、ずっとおれの方があなたを楽しませられるし、幸せにすることができると思うんです」

——どっから出てくるその自信?この人、今までにフラれたこととかないんだわ。

   彼は会社でダントツ一位のイケメン独身男子だという。きっと、学生時代もモテモテだったんだろう。

「で…でも、山口さんはあたしのことなにも知らないじゃないですか?」

「青山さんから邪魔されてますからね」

   山口は首をすくめた。

「だけど……あなたのことはずっと見てましたよ。毎日、見れば見るほど、あなたのことをどんどん好きになっていきました」

——中高生じゃあるまいし。見てるだけで、あたしのなにがわかるというのだろう?

「あたし、あなたよりも六歳ほど歳上なんですけど、知ってます?」

「歳のこと、気にしてくれているんですか?……うれしいな」

   山口はパッと明るい顔になった。

「そんなの、女性の方が平均寿命が長いからちょうどいいじゃないですか?」

——いやいやいや、あなた、あたしの歳すら知らなかったんじゃん。なにをわかってるっていうの?

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