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Chapter 11
危機 ①
しおりを挟む翌朝の稍は最悪だった。
二日酔いは、いっさいなかったが……いや、もしかしたらカラダの疲労が激しすぎて気がつかないだけかもしれない。
智史の腕の中で目覚めたとき、
「悪かった、すまん、ごめん、稍」
彼がぎゅーっと抱きしめながら、気持ち悪いくらい殊勝な顔で謝ってくれたが……
—— DVの彼氏や夫と違うねんからさー。ヤるだけヤって、あとでそんなに謝り倒すんやったら初めっから手加減しろっ、っていうねんっ!
黙ってぐったりしていたら、冷◯ピタを剥がしてくれたのはいいのだが、その額などに、ちゅっ、ちゅっ、としてきたから……これはマズいとあわてて身を起こした。
「……いくらなんでも、もう無理っ!」
稍は怒って寝室を出て、キッチンへ向かった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
智史は稍の身体を気遣って、今日は出勤するのに車を出してくれた。
「しんどかったら、早退してええねんぞ?それとも……休むか?」
運転しながらも、何度も助手席の稍を見て言う。稍はそっぽを向いて車窓を眺めていた。
会社に着いたら、今日も隣の席だ。稍がさりげなーく間を空けようとすると、智史が間合いを詰めてくる。
「稍、今日の昼は外へランチに行こか?なに食べたい?なんでもええぞ」
挙げ句の果てには関西弁である。もちろん、稍にしか聞き取れないほどの小声なのであるが。
職場にいるのに、全然「青山」に見えない。家での「智くん」だ。
——いったい、どうしたん?
「お昼は麻琴ちゃんと社食に行きますので」
稍は平然と答える。もちろん標準語だ。
「おまえら……いつからそないに仲良うなったんや?」
智史は呆然としている。
稍は不敵にふっ、と笑った。
——「天誅」だ。
ところが、麻琴がお昼前、急にロハスライフのフロアに呼ばれてしまった。
「ややちゃん、ごめんね」と言う麻琴に、「大丈夫、お仕事がんばって!」と稍はエールを送る。
ロハスライフのチームリーダーの座がかかっているのだ。
智史はすでに石井と外へ食べに行ってしまっていた。出かける際に『稍、石井が知ってる隠れ家的イタリアンのランチを食うてくるわ』とイヤミったらしく耳元で囁いていた。
『どうぞ』と平然と送り出したが、心の中では「野郎二人でとっとと行きさらせっ」と思っていた。
仕方がないので、一人で社食へ行く。ここは、それぞれが好きなおかずを取るスタイルだ。
稍はメインを鶏の唐揚げにして、あとは冷やしトマトのサラダと空豆のごはんとお味噌汁にした。
なんと社割で四百円なのだ。「嘱託」になってよかった、と思うひとときだ。
ちょうど海に面した窓辺のカウンター席が空いていたので座る。ツイていた。
唐揚げを頬張っていると「隣、いいですか?」と声をかけられる。
ふと見ると、満面の笑みを湛えた山口がいた。
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