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Chapter 11
対決 ⑨
しおりを挟む——やっぱり、彼女には、調子を狂わされてしまったような気がするわ。
「うん、うん」と麻琴の話を聞いているようでいて、いつの間にか自分の思うようにしていたからだ。
——たぶん、無意識でやってるんだろうけど……
男の人は、そういう女の人に弱い。智史もそんな稍に「してやられた」のかもしれない。
麻琴はそう思った。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
上機嫌で稍はタワーマンションのエントランスを通っていく。手続きをしたから、稍の「指紋」で出入り自由だ。
「青山さま、お帰りなさいませ」
王子さまのようなコンシェルジュがにっこりと挨拶してくれる。今夜は彼の当番だったんだ。ツイている。
稍もにっこりと笑顔を返して、奥の高層階用のエレベーターを目指す。
あれから、麻琴がボトルキープしているボウモアをもらって呑んだ。麻琴も、もちろん呑んだ。
いつの間にか、前回入れたばかりだというボトルが空いていた。一時間だけ、という約束もラララ星の彼方へ飛んで行った。
「……おまえ、こんな時間までどこに行っとった?」
玄関のドアを開けると、智史が鬼の形相で仁王立ちしていた。まだワイシャツにスーツのスラックス姿だったが、先に帰っていたようだ。
ひいぃっ、と稍は一瞬のけぞったが、怯んではいけない、と気を強くした。
目の前にいるのは、憎っくき「オンナの敵」である。「オンナ志士」として「ナカマ」が受けた屈辱を晴らすため、闘わなければならぬのだ。
——「天誅」でござるっ!
案ずることはない。アイラの女王が授けてくれた魔法の水が、稍をきっと最強レベルのオンナ志士にレベルアップしてくれたはず!
稍の耳に ♪チャララ、チャッラッラ~ と軽快な電子音が聞こえてきた。
「稍、おまえ……酔うとるな?」
家の中ではひさしぶりに聞く、氷点下の声だ。
「智くんも呑んでるやんっ」
稍はヒールを脱いで智史の方へ寄っていって、くんくんっ、とする。
「アホか、あたりまえや。接待って言うたやんけ……うわっ、おまえ、相当呑んだか、相当強い酒やろっ?」
そう言われると、急にくらっ、ときて、ふらりと智史に寄りかかってしまった。
智史はあわてて稍の腰を抱えて支える。
「稍……だれと呑んでたんや?」
稍は答えない。だって「天誅」だから。
「稍?……答えへん気ぃか?」
智史が稍の顔を覗き込む。稍はぷいっ、とそっぽを向いた。
——だって「天誅」だから。
「……よぉし、上等やんけ」
智史が黒い笑みを浮かべた。
——なんか、イヤな予感がする。
智史は稍を横抱き——いわゆる「お姫さま抱っこ」して廊下を歩きだした。
「やっ…やだっ!」
行き先は、きっと寝室だ。使命をクリアせねばならぬのに「天誅」の危機だっ!
「今日一日、仕事したし……お酒も呑んだしっ……お風呂に入るっ!」
当然、いつものように「却下」されると思ったら、すんなりと「了解」と言われる。だけど、お姫さま抱っこのままだ。
そうこうするうちに、バスルームのあるドアの前で降ろされる。稍がドアを開けて入ろうとすると、智史が先に開けて入る。
「なに突っ立っとんねん。早よ、入れ」
ぐいっ、と腕を引っ張られ引き寄せられる。
——ま、まさか……
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