70 / 150
Chapter 7
偽装 ①
しおりを挟む朝、目覚めると、稍の隣に智史はいなかった。
昨夜は……
『無理無理無理ぃーっ!絶対無理やぁっ!智くんが隣やなんて、絶対寝られへんもんっ!』
『おまえ『居候』の分際で失敬なヤツやなっ⁉︎
ほんなら、おまえは「家主」のおれに「リビングで寝ろっ!」って言うんか⁉︎ ボケっ!』
——お互い口汚く罵り合うすったもんだの末、同じベッドで眠ったはずやのに……
智史の言うとおり、一〇帖ほどある寝室には壁に寄せられたベッド以外にはなにも置いてなかった。エアコンですらベッドから一番遠い壁に取り付けてあった。
ベッドの壁際半分を「陣地」にした稍は、くるりと背を向けた。
『……おれかって、ええ歳や。もう若くもないしな。誰彼なしにヤるわけないやろが。ちゃんとおまえとの「合意」の上の「同意」があってからや。それこそ失敬な話やぞ。……おい、稍、聞いてんのか?……おまえ、まさか……』
稍からは「子どもの気配」が漂っていた。
到底、寝られへんっ!と思っていたが、智史の低く落ち着いた声を聞いているうちに——稍は、すぅーっと眠りに落ちていった。
長かった「激動」の一日に、身体の方は思った以上に疲れていたようだ。
『ウソやろ?……速攻で寝てやがるやんけっ。なにが「智くんの隣は無理や」っちゅーとんねん。ふざけんなっ、シバくぞっ、襲うぞっ』
隣ですぐに始まった寝息に、智史は呆れ果てた。
だが、そのとき、稍が寝返りをうってこちらを向いた。すっぴんで、子どもの頃に見たのと同じあどけない寝顔に、智史は思わず苦笑する。
そして、稍の身体にそっとブランケットをかけ直してやった。
その後、ヘッドボードのリモコンで部屋の灯りを消し、やがて自分も静かに目を閉じた。
目覚めた稍は、ヘッドボードに置いたスマホを見る。時間は七時になったばかりだった。「あの時刻」が過ぎていたことに、稍はホッとした。
本当はもっとゆっくりしていたいところだが「居候」の身ではそうもいくまい。
『家賃も食費も免除してやる代わりに、家事全般をやれ』ということだから「朝ごはんでもつくるか」と稍は伸びをしてベッドから起き上がった。
キッチンへ行き、冷蔵庫を開けて、昨日稍が家から持ってきた食パンと(智史に「供出」するのはもったいないが)成◯石井のあまおういちごバターを取り出す。それから、オムレツでもつくるかと、卵とタカ◯シ北海道牛乳も出す。
「……フライパンくらい、あるやんな?」
稍はシンク下のドアを開けて探した。
そのとき、玄関から物音がした。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
智史が日課のランニングから帰ってきて、玄関のドアを開けると、トーストの香ばしい匂いとコーヒーの芳しい香りがふわっ、と舞い込んだ。
玄関から真っ直ぐに伸びた廊下の奥の、リビングへと続く扉が開いた。
「あ、智くん、おかえり~」
稍がひょこっと顔を出す。
「すっごい汗やん。ランニングしてたんや?シャワー浴びたら、朝ごはん食べて」
「おう、ただいま」
そう言って、智史は廊下の途中にあるバスルームへと向かった。口角が、自然と上がっていた。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる