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Chapter 7

偽装 ①

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   朝、目覚めると、ややの隣に智史さとふみはいなかった。


   昨夜は……

『無理無理無理ぃーっ!絶対無理やぁっ!智くんが隣やなんて、絶対寝られへんもんっ!』

『おまえ『居候』の分際で失敬なヤツやなっ⁉︎
ほんなら、おまえは「家主」のおれに「リビングで寝ろっ!」って言うんか⁉︎ ボケっ!』

——お互い口汚く罵り合うすったもんだの末、同じベッドで眠ったはずやのに……

   智史の言うとおり、一〇帖ほどある寝室には壁に寄せられたベッド以外にはなにも置いてなかった。エアコンですらベッドから一番遠い壁に取り付けてあった。

   ベッドの壁際半分を「陣地」にした稍は、くるりと背を向けた。

『……おれかって、ええ歳や。もう若くもないしな。誰彼なしにヤるわけないやろが。ちゃんとおまえとの「合意」の上の「同意」があってからや。それこそ失敬な話やぞ。……おい、稍、聞いてんのか?……おまえ、まさか……』

   稍からは「子どもの気配」が漂っていた。

   到底、寝られへんっ!と思っていたが、智史の低く落ち着いた声を聞いているうちに——稍は、すぅーっと眠りに落ちていった。

   長かった「激動」の一日に、身体からだの方は思った以上に疲れていたようだ。

『ウソやろ?……速攻で寝てやがるやんけっ。なにが「智くんの隣は無理や」っちゅーとんねん。ふざけんなっ、シバくぞっ、襲うぞっ』

   隣ですぐに始まった寝息に、智史は呆れ果てた。

   だが、そのとき、稍が寝返りをうってこちらを向いた。すっぴんで、子どもの頃に見たのと同じあどけない寝顔に、智史は思わず苦笑する。

   そして、稍の身体にそっとブランケットをかけ直してやった。

   その後、ヘッドボードのリモコンで部屋の灯りを消し、やがて自分も静かに目を閉じた。


   目覚めた稍は、ヘッドボードに置いたスマホを見る。時間は七時になったばかりだった。「あの時刻」が過ぎていたことに、稍はホッとした。

   本当はもっとゆっくりしていたいところだが「居候」の身ではそうもいくまい。

『家賃も食費も免除してやる代わりに、家事全般をやれ』ということだから「朝ごはんでもつくるか」と稍は伸びをしてベッドから起き上がった。

   キッチンへ行き、冷蔵庫を開けて、昨日稍が家から持ってきた食パンと(智史に「供出」するのはもったいないが)成◯石井のあまおういちごバターを取り出す。それから、オムレツでもつくるかと、卵とタカ◯シ北海道牛乳も出す。

「……フライパンくらい、あるやんな?」
   稍はシンク下のドアを開けて探した。

   そのとき、玄関から物音がした。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   智史が日課のランニングから帰ってきて、玄関のドアを開けると、トーストの香ばしい匂いとコーヒーの芳しい香りがふわっ、と舞い込んだ。

   玄関から真っ直ぐに伸びた廊下の奥の、リビングへと続く扉が開いた。

「あ、智くん、おかえり~」

   稍がひょこっと顔を出す。

「すっごい汗やん。ランニングしてたんや?シャワー浴びたら、朝ごはん食べて」

「おう、ただいま」

   そう言って、智史は廊下の途中にあるバスルームへと向かった。口角が、自然と上がっていた。

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