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Chapter 6

同居 ①

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「……おれはこのまま、ここでおまえとヤッても何の異論もないんやけどな」

   ブラックのふっかふかの革張りソファで、ややと抱き合ってキスしていた智史さとふみが言った。

「おまえは記念すべき『おれとの初めて』を、こんな散らかりまくった部屋で済ませてもええんか?それとも……寝室へ行くか?」

   さもおもしろげに片方の口角を上げて、稍を見下ろしている。

   稍は、はっ、と我に返った。

——なっ、流されるとこやった。


「なっ…なに言うてんのよっ。勘違いしやんといてっ! 『偽装結婚』やろっ⁉︎節度は守ってっ!あたしは好きな人としかできひんからっ!『セフレ』とかそういう関係は絶対に無理やしっ!」

   稍はのしかかろうとする智史を、ぐいっ、と押し退けて、ソファから「脱出」した。

「さぁっ、この部屋を片付けるえっ!」
   稍は手首に通していた髪ゴムを外し、セミロングの髪を手早くお団子シニオンに結んだ。

「おっ、やっとここを片付ける気になったか?」
   智史の声が弾んだ。

「ギリギリ四月末までに手続きできるから、今のマンションは五月末までにしてもらうことにする。そしたら、六月からここがあたしの家になるやんかっ。……ゴミ屋敷なんかに住みとうないし」

   カウチソファの上に積まれた衣類を見ながら、稍は言った。

「おれはこのGWのうちにこの家をキレイにすると同時に、おまえの引っ越しも完了させる予定やねんけどな。せやないと、連休開けは忙しなるから、六月になる頃には元の木阿弥や。……そのために、一週間分の着替えを持って来させたんやないか。引っ越しの荷物を取りに行く以外は、天沼には帰らさへんで」

——はぁ?

   早速クリーニングに出すのと、家で洗濯できるものとに分けていた、稍の手が止まりかける。

「それに、連休全部も使われへんぞ。後半は一泊二日で神戸に帰るからな。……そのために、キャリーバッグを持って来させたんやないか」

「はあぁっ⁉︎」
   稍の手が完全に止まった。

「なんで、神戸やのん⁉︎」

   思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。智史の母方の実家は、神戸ではない。

「おれらの『実家』に『結婚』の挨拶・・に行く」

   なのに、智史はきっぱりと言い切った。

「この前、海賊の店でおまえが、『正月に帰省したときに、三田のアウトレットに行った』って話してたやろ?……おまえの実家も神戸に戻ってんな。ちょうどよかった。てっきりまだ、京都のじいちゃんの家やと思ってたから、手間が省けた」

   いつの間にか、会社での「青山リーダー」の顔になっている。

「これは決定事項や。もう新幹線の切符も取ってある。グリーン車やぞ、喜べ。……あ、金か? 無職になったおまえに出させるわけないやろ。心配すんな」

   GWの東京と新神戸間の新幹線の切符なんて、昨日今日で取れるはずがない。

——い、いつから、この計画を立ててたん? も、もしかして、あたしがステーショナリーネットへ派遣で行ったときから、とか?

   稍は心の中でムンクのように叫ぶが、空恐ろしくて智史には到底聞けなかった。

   ただ、智史の『復讐』が『本気』だった、ということが、稍にひしひしと伝わった。

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