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Chapter 6
契約 ③
しおりを挟む——でも、この声色、どこかで聞いたことがあるような。
稍は記憶を辿った。そして、思い出した。
ステーショナリーネットの「給湯室」で、麻琴と話していたときの、智史の甘く囁く声だ。
あのときは、会社ではいつも「鉄仮面の青山」が「あんな甘ったるい声が出せるんや」と思っただけだったが……
今、この場で聞くと、なぜか……
——な、なんか、ムカつく。
「おい、どうした? 稍、ぼぉーっとすんな」
智史が、これでもかというくらいに顔を顰めていた。口調が戻っている。
「まさか……あのアホな男のことでも思い出してるんとちゃうやろな?」
そう呻くように言ったかと思えば、いきなり「ガキみたいな甘っちょろい」のとは、対極のキスを頭上から落としてきた。
智史のくちびるが力強く、稍のくちびるに吸いついてくる。
「……ぅんっ……」
咄嗟のことに、稍はしっかりと智史のくちびるを受け止めてしまう。
そのまま、だんだんと興が乗ってくる。角度を変えながら、ひとしきり互いのくちびるを重ね合わせる。
静かな部屋に、二人のくちびるが触れるときだけに放つ音が響いた。
しばらくすると、智史が今度は力を抜いて、稍のやわらかいくちびるを「はむはむ」してきた。「いい加減、口を開けろ」の催促だ。
稍が自らくちびるを開くのはなんだか癪なので、無視して心地よく「はむはむ」されていると、さらに舌先で「つんつん」と閉じたくちびるの間をノックしてきた。
稍が息継ぎをする合間に薄目を開けて「なによ?」と様子を伺うと、同じように薄目を開けていた智史と目が合った。薄目なのに睨んでいるのが、はっきりとわかる。
稍は迂闊にも、ほんのちょっとだけ怯んでしまった。
すると、その隙を突いて、智史が稍のくちびるをぺろり、と舐めた。とたんに稍のくちびるがふわり、と開いてしまう。
そこへ、待ってましたとばかりに智史の舌が割り込んできた。
——うっわ、こいつ、慣れてやがる。こんな鉄面皮のくせして……実は今までに、結構遊んできたんとちゃう?
こうなったら仕方ない。
——こっちも「本気」出すしかないやん。
稍は智史の首の後ろに両手を絡めた。そして、自らの舌も智史の舌に絡めていった。
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