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Chapter 6
提案 ④
しおりを挟む——さ、さ、さ、サイテーっ‼︎
「さ…智くん、汚れたっ!大人になって、すっかり穢れてしもうたっ‼︎」
思わず稍は、青山を昔の呼び名で叫んだ。
「騒ぐな。やかまし。黙れ。おまえこそアラフォー間近で、あんなしょーもない男に引っかかりやがって婚約破棄したやろが。確実に処女と違うくせにカマトトぶるな。……それに」
青山はこれでもかというくらい顔を顰めて、稍に対して世にもおぞましいものを見るかような目をした。
「その呼び方、やめろ。虫唾が走る」
稍は「婚約破棄」の件では、とっさに手元に「鈍器」がほしくなった。
だけど、それよりも青山が心底イヤがる顔になったのを見て、突然おもしろくなってきた。
「あらぁ?昔は『さとくん』『ややちゃん』って呼び合う仲やったのになぁ」
「……ブッ殺されたいんか、おまえ」
すでに何人か殺ってしまったかのような顔で、青山が凄んだ。
「……あぁっ、あの純真無垢で汚れなき、小学生の『さとくん』はどこへ行ってしまったのっ⁉︎」
もっと「雰囲気」を出すために、稍は「よよっ」と床に突っ伏して嘆こうと思った。
だが、しかし……足の踏み場もないくらい散乱している状態を見て、逆に足を踏ん張った。
「……あのさ、智くんって小学生の頃、自分の部屋をキレイに片付ける子やったよな?」
稍は床の「惨状」を見ながら、ぽつりと呟いた。
何度も行った彼の部屋の、きちっと整理整頓された学習机の上や、ぴしっと張られたベッドのシーツが脳裏に甦ってきた。
——確かあの頃は、少し神経質なくらいなほどのキレイ好きやったはず。
「おれも、こんな状態はうんざりや」
青山はまた、はぁーっと深いため息を吐いて、前髪をくしゃっとかき上げた。
「あのさぁ、別にあたしやなくてもさぁ。……麻琴さんに来てもらって片付けたら?」
稍は、麻琴の普段のバリキャリ姿からは考えられない、会社の給湯室でのはしゃいだ様子やスマホから聞こえた甘えた声を思い出した。
たとえ青山がどう思っていようとも、麻琴の方は「セフレ」だとは思っていないような気がしてならない。
「何遍もおんなしこと言わすな。麻琴とは、お互い割り切った関係や。あいつの優先順位の筆頭は、おれと同じ『仕事』や。……そうは言うても、まぁ、おれも男やからたまに女がほしくなる。あいつもそんな感じやろ?」
——そうかなぁ?
稍は、やっぱり納得できなくて鼻白む。
なんでも「合理的」に物事を捉える青山に「オンナゴコロ」がわかっているとは、到底思えなかったからだ。
「せやから、麻琴の部屋へ行っても泊まったことはない。それに、麻琴どころかどの女も、おれの部屋に連れてきたことはない」
——麻琴さん、こいつに嫌われとうなくて、そんなふうに合わせてるだけとちゃうんかな?
「それに、麻琴にはちゃんと『結婚する女がいるから、そいつのためにも、おまえとの今までの不毛な関係はもうやめる』って言うてきたし」
青山は平然と告げた。
——はああぁっ⁉︎ こ、こいつ、やっぱし「オンナゴコロ」が世界一わかってへんっ!
稍は天を仰いだ。室内なので、実際には「天井」であったが。
「それに、こんな状態の部屋を、麻琴みたいな『ええ女』に見せられるわけないやろ?」
——ほな、あたしやったら、ええんかよっ⁉︎
稍は青山を宇宙一「オンナゴコロ」をわかってない男、として認定した。
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