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Chapter 6
提案 ①
しおりを挟む翌朝、8:00 a.m.
ローテーブルの上に置いていたスマホから、♪ピンポーンと軽快な着信音が鳴った。
こんがりと焼けたところに、成◯石井のあまおういちごバターを塗ったトーストを頬張っていた稍が、スマホを覗き込むと、
【青山 智史】
朝っぱらから見たくもない名前が、ポップアップされている。
カ◯ディのスペシャルブレンドとタ◯ナシ北海道低脂肪乳を使ってハンドドリップで淹れたカフェオレを、ごくっ、と一口飲む。
憂鬱な思いで、稍はタップする。
【起きてるか?】
——起きて、もう朝ごはん食べてるし。
【オシャレして来るなよ】
——はぁ?
【汚れてもええような服を着て来い】
——はあぁっ⁉︎
そして、10:00 a.m.
稍はG◯Pのパーカーにユ◯クロのスキニーパンツの姿で、有明テニスの森駅近くのそびえ立つタワーマンションの前にいた。
右手には大きな銀白色のスーツケース、左手にはオレンジのキャリーバッグを携えていた。海外旅行用のスーツケースも国内旅行用のキャリーバッグも、両方ともハ◯ズプラスのシリーズである。
これらは先刻、タクシーの運転手がトランクから下ろしてくれた。タクシーは、青山が稍のマンションまで回したものだ。
稍のスマホから、携番やメルアドやL◯NEのIDだけではなく、住所までも入手していたようだ。
突然クビ宣告され、いくら魂を抜かれていたからとはいえ、ここまで無防備に個人情報を抜かれていたとは……
稍はエントランスのインターフォンで、青山に到着した旨を伝えた。
『コンシェルジュには話を通してある。……入れ』
相変わらず、氷点下な声だった。
「……麻生さまですね?青山さまより、伺っております」
エントランスを立ち塞ぐ巨大な自動ドアが、うぅぃーんと開いたと思ったら、そこにホテルのドアマンような制服を着たコンシェルジュが傅いていた。王子さまのような雰囲気のイケメンである。
「麻生さま、お手伝いしますね」
彼は「お手伝い」するというより、スーツケースとキャリーバッグを二つともひょいっとポーターのように引き受けて、さっさとエレベーターまでがらごろしてくれる。
やってきた箱に稍が乗り、「ありがとうございまし……」と言いかけたら、彼も乗り込んできて、結局、青山の部屋の前までがらごろしてくれた。
稍は、とっても助かった、と思った。
「どうも……ありがとうございました」
特に、ややもすると気持ちがささくれ立ちそうになるこんなときは「やさしさ」が身にしみる。
「いえいえ、お役に立ててなによりです。それではなにかございましたら、なんなりとご用命ください」
そう言って、コンシェルジュの彼は一礼して持ち場に戻って行った。
青山の部屋のインターフォンを押す。
『……入れ』
氷点下の応答があり、稍は玄関のドアを開ける。
「お邪魔しま…す」
稍は、まず顔だけドアの中に入れた。
——だれもいない。
次に、ゆったりとしたスペースが確保された玄関に足を踏み入れた。
「……スリッパを履いて、廊下の突き当たりまで来い」
まっすぐに伸びた廊下の奥から、青山の声が聞こえてきた。
稍は、今の服に合わせて選んだヒールのほとんどないバレエシューズを脱いで、玄関の大理石の部分と段差のない幅広のフローリングの廊下に置かれていたスリッパに履き替えた。
とりあえず、スーツケースとキャリーバッグは玄関先に置いておいて、言われたとおりに廊下の突き当たりへと進む。
「……入ってこい」
そして、たぶんリビングへと続くだろうと思われる、木目が美しいダークブラウンのドアを開けた。
——なんじゃ、こりゃ⁉︎
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