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Chapter 5

交錯 ④

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   麻琴の家を訪れた青山は、ダイニングで彼女の手料理を食したあとリビングに移った。そして、一件だけL◯NEを送ってからは、いつものようにタブレットで仕事をしていた。

   すると、ポケットからバイブ音がしたので、スマホを取り出しタップした。L◯NE通話だった。

「……なんや? なんか用か?」

   青山は不機嫌な声で通話に出た。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   後片付けを終えた麻琴が、青山にエスプレッソを飲むかどうかを尋ねるために、リビングに入ってきた。
   今夜の青山は、なぜかワインどころかビールすら呑んでいなかった。

「…………ないんか?…………ほな、持ってこい」

   麻琴は息を飲んだ。青山が関西弁で話しているからである。

「騒ぐな。やかまし。黙れ」

   やはり、関西のアクセントだ。しかも、かなりぞんざいな口の利き方である。

   青山が関西の出身だということは知ってはいたが、彼の関西弁を聞くのは初めてだった。

——実家からなのかしら?GWだから、帰省しろっていう催促とか?

「おう、ほんで『やぎやや』なんていう、へんてこりんな名前になってたわけやな?」

   青山の今までの無愛想な表情が一変して、急にくくっ、と笑い出した。

「アホか。おまえが結婚して名字が変わったわけやない、っていうことくらい知っとるわ」

   笑いがどんどん大きくなる。リムレスの眼鏡を外した。神経質そうないつもの顔つきは、今やまったく影を潜めた。

   人懐っこそうな……まるで少年のような笑顔だった。

「……明日、おまえが来たら、ちゃんと説明したるから」

   なんだか、声までやわらかく感じた。

「そうか。そしたら、おまえ、一生わからんじまいやぞ。……ええんか?」

   揶揄からかうような口調ながらも、まるで子どもをなだめるようなやさしさが見えた。

   相手はだれだかわからない。ただ、青山に兄弟姉妹はいなかったことを麻琴は知っていた。
   同郷の男友達なのかもしれない。それとも、親戚の女の子なのかも?

   だけど……麻琴はもう、限界だった。


「智史、食後にエスプレッソを淹れるけど。……あら、ごめんなさい、電話してたの?」

   麻琴は青山に声をかけた。いつもより、大きめの声だったかもしれない。

   青山が眼鏡をかけた。顔を上げて、麻琴を見る。

   一瞬のうちに……いつもの神経質な顔つきに戻っていた。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   その後、通話を終えた青山が、麻琴がデロ◯ギで淹れたエスプレッソを目の前にして口を開いた。

「……麻琴、話がある」

   いつもの、標準語だった。

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