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Chapter 5
白日 ④
しおりを挟む「ひっ…ひさしぶりっ」
稍は引きつった笑いを貼り付けて言った。
「なにが『ひさしぶりっ』や。再会してから一ヶ月経っとるわ、ボケ」
——ぼ、ボケって、なによっ!人が勇気を振り絞って挨拶してんのにさっ!
「いっ…いつから気ぃついてはったん?」
向こうがいきなり関西弁を遣うから、こっちもそうなった。
「おまえは、おれに、いつから気ぃついとったんや?」
質問を、質問で返された。思わずムッとしたが、稍が答えようとして口を開いた瞬間……
「初出勤の日に、エレベーターから降りて、このフロアに入って、おれを見かけたときやろ?」
言葉を被せられた。
——なんでわかるん?
「おまえ、おれの顔見て固まっとったからな。おれも、おまえのこと、すぐにわかったぞ」
窓から差し込む西陽がリムレスの眼鏡のレンズに反射して、キラリと光る。
「おれはエントランスのとこで、やけどな」
「あたしと一緒のとこやんかっ」
稍がすばやくツッコむと「アホか」と心底呆れた表情をされた。
「この階の会社の入り口と違うわ。エントランスって言うたら、テレ◯ムセンターの入り口やないか」
——それって、このビルの入り口で、もうすでに見られてた、っていうこと⁉︎
稍の顔から血の気が引いた。体感温度が、一気に氷点下に突入した。
いっそのこと、このまま「凍死」したかった。
リムレスのレンズの奥にある鋭い切れ長の目が、稍を忌々しげに射抜いている。
「ほんで、その数十分後に会うたときには、なぜかおまえが、そないな、けったいな格好になっとったけどな」
だが、ふとそのとき、その鋭い目に暗い翳りが迷い込んだように見えた。
「稍、おまえ……そんなにおれと会いとうなかったんか?」
その目で、じっと見つめられる。
稍は気弱に、ふるふるふる、と首を左右に振るしかなかった。
でも、やっぱり……
——会いたくなかった、が真実なんだけれども。
「……まぁ、どうでもええわ。おまえ、今日でクビやから」
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