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Chapter 4

疑惑 ⑤

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「……ガン見するな、みっともない」

   青山が「上司」らしく冷静に制した。おまえ、何歳いくつだ?という呆れた顔をしている。

「へぇ……なかなか綺麗な子じゃないか。でも、うちの会社の子じゃないね。取引先の関係者かな?」
   唯一、パーティで「彼女」を見ていなかった石井が目を見張ってつぶやいた。

「魚住課長が出張に行っちゃったから、名前も歳もわかんないんっすよ」
   山口は顔を歪めて、泣きそうな顔になってる。このせつなげな表情は、本気で「アオハル」かもしれない。

「名前はもちろんわからないけど、歳は……もしかしたら、山口くんよりも上かもよ?若くは見えるけど、なんだか堂々としてて『大人』な感じだから」

   麻琴ができる範囲で「推測」してやる。なんだか(ただしほんのちょっぴりだが)かわいそうになってきたのだ。

「彼女」は二人でこの店に来たようだ。男と一緒じゃなくて、山口がホッと息をつく。

   先に連れの方が、隣のテーブルにやってきて腰を下ろした。連れのカナリアイエローのペンシルスカートの子も、なかなかかわいらしい顔立ちをしていた。
   そして、オシャレだった。やはり「類友」である。

   その子が彼女を手招きしたため、隣のテーブルにやってくる。姿勢よく歩く姿も、凛として美しかった。

「ラッキー!」

   山口がガッツポーズをする。

「向こうのテーブルへいろいろ聞きに行けるぞ。……あ、石井さん、警戒されるといけないんで、一緒に行きませんか?」

——それじゃ、ただのナンパじゃない⁉︎ 

   麻琴は山口を「かわいそうに」思うのを、すっぱりやめた。

「そんなの知らないよ。第一、なんで妻も子もいる僕が今さらそんなことしなきゃなんないのさ」

   石井も苦笑しながら、即座に断っている。左手薬指のリングが光る。カルテ◯エの1895だ。何の変哲もないシンプルなプラチナリングだが、却って既婚者を物語っていた。

「じゃあ、青山さ……」

   勢いで話しかけたものの、青山から間髪入れずに眼光鋭く睨まれたため、

「あ……いえ、いいです。す、すいません」

   山口はそれ以上の言葉を封じ込めた。

「……とにかく、食べましょうよ」

   麻琴がテーブルいっぱいに並べられたセットの料理を見て言った。いくら二時間飲み放題とはいえ、先刻さっきからみんな、生ビールを呑んでばかりだ。今の季節では気の早い「ビアガーデン」である。

——そういえば、この人たち、どんな場でも、女子が甲斐甲斐しく小皿に取り分けてくれる男たちだったわ。

   生憎、この場に「女子」は麻琴しかいない。

   ところが麻琴自身も、どんな場でも「男子」が甲斐甲斐しく小皿に取り分けてくれる女なのだ。
   合コンなどで男子への受け狙いのために「世話女房」する女にはトップクラスの美貌はない。だから、そういうことをしてでも「浮き上がろう」とするのだろう。

   少なくとも麻琴の友人には、そんな「中途半端な」女はいない。
   なにもせず座っていたって、たとえ相手がどんなエグゼクティブであろうと、世界情勢からスポーツまでいろんな話題で盛り上がって、その場を楽しく過ごすことなど朝飯前だからだ。
   正真正銘のトップクラスの美貌と、そして教養も併せ持つ女たちだ。「類友」である。

   こうなったら、「イケメンあるある」VS「高嶺の女あるある」の我慢比べだ。

——絶対に、小皿に取り分けてなんかやらないわよーだ。

   思わず舌を出して、あっかんべぇーとやりたくなる。

   とはいえ、麻琴だって、さすがに好きな男の前では「世話女房」になる。だからこそ、特別感が出て付加価値が生まれるのだ。「プレミアム」とはそういうものだと思っている。

   麻琴は青山をちらり、と見た。

——でも、「今」はしないからね。

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