上 下
36 / 150
Chapter 4

疑惑 ③

しおりを挟む

   この日、いつものようにほぼ定時に仕事を終えたややは、元同僚の西村 沙知とひさしぶりに呑みがてら食事をすることになっていた。

   仕事を終えてメトロの茅場町からやってくる沙知を待つ間、稍はア◯アシティの三階をうろうろしていたら、店頭に飾られていたワンピに一目惚れしてしまった。

   別にミエを張るわけではないが、このダサい格好のまま沙知に会うのは気が引ける。
   五月は金欠になることは百も承知だが、転職してうらぶれたと思われ同情されたくない。

   稍はワンピに合うパンプスとともに、フィッティングルームへ向かった。


   フィッティングルームのカーテンを引いて中に入ると、ぱっつん前髪のウィッグを取って、「ア◯レちゃん」を外し、引っ詰め髪をぱさりと下ろした。

   全身が映った鏡に顔を寄せ、パウダーを叩きアイラインを入れチークを乗せる。
   そして、七分丈のベルスリーブで膝上のブルームスカートになったライラック色のワンピを着て、オフホワイトのプラットホームのヒールを履く。

   おもむろに、稍はフィッティングルームのカーテンを引いて開けた。

「おつかれさまで~す、いかかでし……」

   フィッティングルームから出てきた稍を、ショップ店員が二度見した。

「このまま、この服を着たいのでタグを取ってください。今まで着てた服と靴の方を袋に入れてください」

   呆然とたたずむ店員を尻目に「変装」を解いた稍は、こともなげに言った。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   沙知からア◯アシティに到着したとL◯NEが入って「ひさしぶり~」と合流する。
   三月末の送別会以来だ。それまでは、毎日会社で会っていたというのに……

「ややさん、やっぱり今日も綺麗ですっ。そのワンピの色、すっごく似合ってます!バッグとはおソロみたいな色ですねぇ」

   そういう沙知も、ゆるふわなアイボリーのトップスとカナリアイエローのペンシルスカートという緩急をつけたオシャレなコーディネイトである。キャメルブラウンのふんわりボブも愛らしくて、三〇歳を過ぎているとはとても思えない。

「ありがと、さっちゃん。わざわざお台場まで来なくてよかったのに」

   それでなくても今日は平日なので、稍は気が咎めた。だが、沙知は一向に気にせず、

「なぁに言ってるんですかぁ。あたし、一度行ってみたいと思ってたダイニングバーがあるって言ったでしょ?今日は楽しみにして来たんですから」

   スマホでググった店を、ほらっと見せた。海賊船をイメージした内装の、多国籍料理の店だった。

「……おもしろそうだね」
   稍はディスプレイを覗き込みながら微笑んだ。

「しかも、二時間飲み放題ですよー」
   沙知が拳を握って「気合い」を入れる。彼女はイケる口だ。

   二人は五階にあるというその店へ足を向けた。


   そして入った多国籍料理のダイニングバーで「テラス席へどうぞ~!」と海賊姿の店員から案内される。

   テラスに出たとたん、真っ正面に、でっかいレインボーブリッジが飛び込んできた。

「うっわー、すっごーいっ!圧巻ですねぇ~っ!これを見たかったんですよぉー!」

   沙知がはしゃいだ声をあげる。眼前の壮大な光の橋を見て、稍のテンションも瞬く間に上がった。

——おおっ、まさに「That’s お台場」じゃんっ!

   東京出身ではないおのぼりさんの血が、ぐらぐらと沸き立つ。

   しかし、次の瞬間——その血が凍った。


——な、な、な、なんで、あいつたちが、ここにいるわけ⁉︎

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

真実(まこと)の愛

佐倉 蘭
現代文学
渡辺 麻琴 33歳、独身。 167cmの長身でメリハリボディの華やかな美人の上に料理上手な麻琴は(株)ステーショナリーネットでプロダクトデザイナーを担当するバリキャリ。 この度、生活雑貨部門のロハスライフに新設されたMD課のチームリーダーに抜擢される。 ……なのに。 どうでもいい男からは好かれるが、がっつり好きになった男からは絶対に振り向いてもらえない。 実は……超残念なオンナ。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「昼下がりの情事(よしなしごと)」「偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎」「お見合いだけど恋することからはじめよう」「きみは運命の人」のネタバレを含みます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
2021 宝島社 この文庫がすごい大賞 優秀作品🎊 24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...