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Chapter 4
疑惑 ③
しおりを挟むこの日、いつものようにほぼ定時に仕事を終えた稍は、元同僚の西村 沙知とひさしぶりに呑みがてら食事をすることになっていた。
仕事を終えてメトロの茅場町からやってくる沙知を待つ間、稍はア◯アシティの三階をうろうろしていたら、店頭に飾られていたワンピに一目惚れしてしまった。
別にミエを張るわけではないが、このダサい格好のまま沙知に会うのは気が引ける。
五月は金欠になることは百も承知だが、転職して荒ぶれたと思われ同情されたくない。
稍はワンピに合うパンプスとともに、フィッティングルームへ向かった。
フィッティングルームのカーテンを引いて中に入ると、ぱっつん前髪のウィッグを取って、「ア◯レちゃん」を外し、引っ詰め髪をぱさりと下ろした。
全身が映った鏡に顔を寄せ、パウダーを叩きアイラインを入れチークを乗せる。
そして、七分丈のベルスリーブで膝上のブルームスカートになったライラック色のワンピを着て、オフホワイトのプラットホームのヒールを履く。
おもむろに、稍はフィッティングルームのカーテンを引いて開けた。
「おつかれさまで~す、いかかでし……」
フィッティングルームから出てきた稍を、ショップ店員が二度見した。
「このまま、この服を着たいのでタグを取ってください。今まで着てた服と靴の方を袋に入れてください」
呆然と佇む店員を尻目に「変装」を解いた稍は、こともなげに言った。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
沙知からア◯アシティに到着したとL◯NEが入って「ひさしぶり~」と合流する。
三月末の送別会以来だ。それまでは、毎日会社で会っていたというのに……
「ややさん、やっぱり今日も綺麗ですっ。そのワンピの色、すっごく似合ってます!バッグとはおソロみたいな色ですねぇ」
そういう沙知も、ゆるふわなアイボリーのトップスとカナリアイエローのペンシルスカートという緩急をつけたオシャレなコーディネイトである。キャメルブラウンのふんわりボブも愛らしくて、三〇歳を過ぎているとはとても思えない。
「ありがと、さっちゃん。わざわざお台場まで来なくてよかったのに」
それでなくても今日は平日なので、稍は気が咎めた。だが、沙知は一向に気にせず、
「なぁに言ってるんですかぁ。あたし、一度行ってみたいと思ってたダイニングバーがあるって言ったでしょ?今日は楽しみにして来たんですから」
スマホでググった店を、ほらっと見せた。海賊船をイメージした内装の、多国籍料理の店だった。
「……おもしろそうだね」
稍はディスプレイを覗き込みながら微笑んだ。
「しかも、二時間飲み放題ですよー」
沙知が拳を握って「気合い」を入れる。彼女はイケる口だ。
二人は五階にあるというその店へ足を向けた。
そして入った多国籍料理のダイニングバーで「テラス席へどうぞ~!」と海賊姿の店員から案内される。
テラスに出たとたん、真っ正面に、でっかいレインボーブリッジが飛び込んできた。
「うっわー、すっごーいっ!圧巻ですねぇ~っ!これを見たかったんですよぉー!」
沙知がはしゃいだ声をあげる。眼前の壮大な光の橋を見て、稍のテンションも瞬く間に上がった。
——おおっ、まさに「That’s お台場」じゃんっ!
東京出身ではないおのぼりさんの血が、ぐらぐらと沸き立つ。
しかし、次の瞬間——その血が凍った。
——な、な、な、なんで、あいつたちが、ここにいるわけ⁉︎
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