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Chapter 4
疑惑 ②
しおりを挟む「ハケンさん?……あの、地味な人?」
山口が素っ頓狂な声を上げる。
「あの人、地味じゃないわよ」
麻琴が片眉を上げて、反論する。
「えぇーっ、だっておれ、あの人を初めて見たとき、葬儀屋かと思いましたもん。全身、真っ黒で」
その日、稍は黒のスーツを着ていた。
「……で、麻琴ちゃんは、どうして彼女が地味じゃないと思うの?」
石井が尋ねる。少し、興味を持ったようだ。
「だって、あの人、時計がエル◯スなんだもの」
麻琴が石井のノーチラスを見ながら答えた。
「ええぇっ、あの地味女がぁっ⁉︎」
山口が大声で叫んだ。
「……山口、うるさい」
初めて青山が口を開いた。いくらテラス席といえども、周りに迷惑だと思ったからだ。
山口が「す、すいません」と軽く頭を下げる。
「へぇ……麻琴ちゃん、よく見てるね。エル◯スのクリッパーで、白い貝殻のフェイスだったよね?」
石井も気づいていたようだ。さすが時計に詳しい。麻琴は、うんうん、と肯いた。
「値段も手頃で女の子に人気のモデルだったんだけど、確か廃盤になったんだっけな」
「それに彼女、いつも、すっごくいい匂いさせてるし。他人を不快にさせないフレグランスを心得てる、って感じなのよねー。それに着ている服だって決してダサくないのよ?自分の体型のラインによく合ってて、それでいてさりげなく流行も採り入れていて、とにかくオシャレなの」
麻琴がどんどん「状況証拠」を積み重ねていく。いつの間にか、本題の「山口の恋バナ」よりもずっと話が弾んでいた。
「あ、確かに……後ろ姿だけは、前に回って顔を見てみたくなるほど、スタイルいいかも」
山口が閃いたように言う。
「でしょ?」と麻琴がドヤ顔をする。
「……じゃあ、なんでダサく見えるんだ?」
青山までもが話に加わってきた。
石井が顎に手をあてて、名探偵のように「推理」する。
「あのヘンな前髪のせいじゃないか?……あと、あのでっかい眼鏡かな?」
そして、あのぱっつんな前髪とバカでかい眼鏡は「ちょっと、ありえないよな?」という意見が全員の共通見解となる。
「それとね……不思議なことがあるの」
麻琴が声を潜めて言った。
「あの人って、確か自分の名前を『こずえ』って言ってたわよね?」
一同は「それがどうした」という顔をする。
「あの人、ブ◯ーノとサー◯スがコラボした、携帯マグをいつも持ってきてるんだけど……」
一同は「よく見てんなー」という顔になった。
「イニシャルがプリントされている人気のマグなんだけど……」
一同はまた「それがどうした」という顔に戻る。
「なぜか……『Y』なのよ」
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