上 下
22 / 150
Chapter 3

招宴 ②

しおりを挟む
 
   創業記念のパーティは、その老舗ホテルの一番大きな宴会場で催されていた。

   受付を済ませた稍は、その会場へ一歩足を踏み入れたとたん、ぎらぎらと輝く巨大なシャンデリアに目を射抜かれた。一般庶民とはかけ離れたきらびやかな世界が、そこにはあった。

   麻琴の言うとおりだった。こんな機会がなければ一生縁のない場所である。

   この歳になると、友人や親類たちのホテルでの結婚式には何度も出席したが、ここは文字どおり「ケタ違い」な広さだ。

   大きくて細長いテーブルの上には、すでに銀の器に盛られた美味おいしそうな料理が所狭しと並んでいた。温かいものは保温されていて、冷たいものは氷に囲まれている。

   また、白木の大きなまな板がある所では寿司職人が寿司ネタの魚を捌いているし、大きな分厚い鉄板の脇ではコックコートの人が大きな塊のステーキ肉を切り分けていた。

   さらに「うどん・そば」「ラーメン」と暖簾のれんの掛けられた屋台が設置されたコーナーからは、それぞれの出汁だしやスープの香りがこちらまで届いてくる。「できたて」を提供する準備が着々と整えられているのがわかる。

   結婚式に招ばれたときの中途半端な温度の「宴会料理」とはレベル違いの配慮が見てとれた。

   稍は、ムダな意地を張らずに来てよかった、と心底思った。


   今日の稍は「変装」をしていない。

   前髪はサイドへ自然に流し、セミロングの後ろの髪も引っ詰めることなく下ろしている。

   Vネックでノースリーブのトップにボトムが膝丈のバルーンスカートになった、ミントグリーンのカクテルドレスを着ていた。
   以前、友人の結婚式に出席するドレスを購入するために訪れたセレクトショップで、見立ててもらったものだ。周囲から好評だったドレスだ。

   そして、久々にシルバーの八センチヒールに足を通した。一七〇センチ近くの身長になる。

   中学・高校とバドミントン部で培った、ぱっくり開いた背中からちらりと覗く「天使の羽」の肩甲骨に、きれいに筋肉のついたカモシカのような脚。背筋も膝裏も、自然にすーっと伸びていた。

   どうせ、派遣社員の自分まで招待してくれるパーティだ。きっと、招待客はとんでもない数だろう。「変装」を解いたって、知った顔に会うはずもないと稍は思った。

   それに、なによりも……稍が「オシャレ」をしたかったから、である。

   せっかく、こんなにセレブリティな空間に潜り込めるというのに……

——「ぱっつん前髪のア◯レちゃん」なんて、ありえへんし。


「……あれっ、麻生あそうちゃん?」

   だが、しかし——いきなり、声をかけられた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

真実(まこと)の愛

佐倉 蘭
現代文学
渡辺 麻琴 33歳、独身。 167cmの長身でメリハリボディの華やかな美人の上に料理上手な麻琴は(株)ステーショナリーネットでプロダクトデザイナーを担当するバリキャリ。 この度、生活雑貨部門のロハスライフに新設されたMD課のチームリーダーに抜擢される。 ……なのに。 どうでもいい男からは好かれるが、がっつり好きになった男からは絶対に振り向いてもらえない。 実は……超残念なオンナ。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「昼下がりの情事(よしなしごと)」「偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎」「お見合いだけど恋することからはじめよう」「きみは運命の人」のネタバレを含みます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
2021 宝島社 この文庫がすごい大賞 優秀作品🎊 24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...