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Chapter 3
招宴 ②
しおりを挟む創業記念のパーティは、その老舗ホテルの一番大きな宴会場で催されていた。
受付を済ませた稍は、その会場へ一歩足を踏み入れたとたん、ぎらぎらと輝く巨大なシャンデリアに目を射抜かれた。一般庶民とはかけ離れた煌びやかな世界が、そこにはあった。
麻琴の言うとおりだった。こんな機会がなければ一生縁のない場所である。
この歳になると、友人や親類たちのホテルでの結婚式には何度も出席したが、ここは文字どおり「桁違い」な広さだ。
大きくて細長いテーブルの上には、すでに銀の器に盛られた美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。温かいものは保温されていて、冷たいものは氷に囲まれている。
また、白木の大きなまな板がある所では寿司職人が寿司ネタの魚を捌いているし、大きな分厚い鉄板の脇ではコックコートの人が大きな塊のステーキ肉を切り分けていた。
さらに「うどん・そば」「ラーメン」と暖簾の掛けられた屋台が設置されたコーナーからは、それぞれの出汁やスープの香りがこちらまで届いてくる。「できたて」を提供する準備が着々と整えられているのがわかる。
結婚式に招ばれたときの中途半端な温度の「宴会料理」とはレベル違いの配慮が見てとれた。
稍は、ムダな意地を張らずに来てよかった、と心底思った。
今日の稍は「変装」をしていない。
前髪はサイドへ自然に流し、セミロングの後ろの髪も引っ詰めることなく下ろしている。
Vネックでノースリーブのトップにボトムが膝丈のバルーンスカートになった、ミントグリーンのカクテルドレスを着ていた。
以前、友人の結婚式に出席するドレスを購入するために訪れたセレクトショップで、見立ててもらったものだ。周囲から好評だったドレスだ。
そして、久々にシルバーの八センチヒールに足を通した。一七〇センチ近くの身長になる。
中学・高校とバドミントン部で培った、ぱっくり開いた背中からちらりと覗く「天使の羽」の肩甲骨に、きれいに筋肉のついたカモシカのような脚。背筋も膝裏も、自然にすーっと伸びていた。
どうせ、派遣社員の自分まで招待してくれるパーティだ。きっと、招待客はとんでもない数だろう。「変装」を解いたって、知った顔に会うはずもないと稍は思った。
それに、なによりも……稍が「オシャレ」をしたかったから、である。
せっかく、こんなにセレブリティな空間に潜り込めるというのに……
——「ぱっつん前髪のア◯レちゃん」なんて、ありえへんし。
「……あれっ、麻生ちゃん?」
だが、しかし——いきなり、声をかけられた。
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