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Chapter 2
目撃 ②
しおりを挟む青山が書類を持って席を立った。どうやら、魚住課長に用があるらしい。
魚住も昨日のようなスーツ姿でなく、ビー◯スのポロシャツにジャパンブルーのブーツカットのデニムという、とても管理職とは思えない格好だが、すこぶる似合っていた。
稍は青山が席を離れると同時に、ホッと息をついた。初日の昨日は無我夢中で仕事をしていたが、少し慣れてきた今日は却って緊張の連続だった。
すると、青山が魚住のところへ行くのを目で追っていた山口が、稍のところへ、すすっと寄ってきた。
「……ハケンさん、あのさ、ちょっと頼みたいものがあるんだけど」
山口はこちらの都合を聞くこともなく、営業先に送付する請求書と社内伝票の説明を始めた。
何件もあるうえに、それぞれの仕様が異なった。また、締日の関係上できるだけ急いでほしいと言う。
稍の眉間にシワが寄る。
はっきり言って、青山から頼まれた分だけでも、今日中に終えられるかどうかわからないのに……
それに、派遣は残業ができないっていうのに……
無責任な仕事の引き受け方はしたくなかった。
「あの……青山さんに聞いてからでもいいですか?」
だが、稍の立場上、強くは言えなかった。
「君はさ、青山さんに雇われてるわけじゃないだろ?この会社に雇われてるんじゃないか。そしたら、ほかの社員の仕事もやる義務があるんじゃないのか?」
山口はムッとした顔で言った。稍に直接頼めば、きっと引き受けるだろうと思っていたのだ。
そのとき、低い声が聞こえてきた。
「……山口、なにをしている?」
青山の声だった。
「面倒だからと言って、その程度の仕事で派遣を使うな。自分でやれ」
青山は山口を冷たく見た。稍に寄って行くのが見えたため、課長の魚住のところからひとまず戻ってきたのだ。
魚住は遠くの席からこちらを見て、なぜかニヤニヤ笑っている。
稍は突如緊迫してしまった雰囲気に、なす術もなく固まった。
麻琴は仕事の手を止めて、じっくり観察する態勢に入った。
石井はやれやれとばかりに、半ば呆れながらユニ◯ットのコーヒーをごくり、と飲んだ。
「そ、その程度って……所詮、派遣がやれる程度の仕事っすよ。それを任せてなにがいけないんっすか?」
山口は声を尖らせた。
「じゃあ……見てみろ」
青山が稍のPCを山口へ向けた。
昨日と今朝のデータをグラフや表にしたものに、青山の厳選されてシンプルな説明を加えたスライドを開く。もちろん、一枚きりではない。スライドショーにして次々と見せた。
稍がレイアウトしたスライドは、パワー◯イントでつくるプレゼン資料のお手本のように、フォントも配色もよく考えられていて、見やすくわかりやすいものだった。
初めてのパワー◯イントであったが、ワ◯ドとエ◯セルを組み合わせた感覚でやれば、稍にとってはなんということもなかった。
暗号みたいなHTMLだけで自身のブログサイトをつくっていた子どもの頃から考えてみると、天国のような作業だ。まぁ、そのときの「地獄」のおかげで今でもソースを覗くとわくわくするが。
山口は驚きで目を見開いていた。稍が「パワーポイント初心者」であることはつゆも知らない。
「短時間でこれだけのことができる者に、伝票整理などの雑用をさせる暇はない」
青山はきっぱりと言い切った。
「これは『Bun-Goo』のプレゼン資料だ。載るか載らないかでは、君の営業成績も変わってくるんじゃないか? わかったら、協力しろ」
山口は唇を噛んだ。
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