偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

Chapter 2

再婚 ①

「はぁ……今日は疲れた……」

   天沼の1Kの一人暮らしのマンションに帰るなり、稍ややはなだれ込むように無◯の「体にフィットするソファ・ミニサイズ」の上に身を預けた。

   メトロの茅場町付近だった前の会社とは、倍くらいの通勤時間になった。

   青山チームだけでなくステーショナリーネットに勤務する人たちはみんな、ゆりかもめ沿線の「島内」に住んでいると麻琴から聞いた。それだけ残業が多いということだ。

   チームリーダーの青山は運動不足解消のためランニングステーションのある「有明テニスの森」に、麻琴は「港区台場」の住所にこだわって「お台場海浜公園」に、山口は「島内」では単身者用のマンションが比較的多い「豊洲」に、そして妻子持ちの魚住課長とサブリーダーの石井は最近ファミリー層に人気の「東雲」に居を構えているらしい。


   稍は駅前のロー◯ンで買ってきた今夜の夕飯を、だるい身体からだでローテーブルに置いた。といっても、食欲がないため「八種野菜と豆のミネストローネ」だけである。

   つい買ってしまったロー◯ン限定販売の「氷◯ ZERO SEVEN シチリア産レモンライム」のプルトップを引き抜く。グラスを取りに行く気力もないので、缶のままビールのようにくぅーっと呑む。

「……ぁあ、おいしぃ……」
   一人きりなのに、思わず声が漏れた。

「あ、ミネストローネ温めなきゃ」
   ソファから立ち上がろうとしたそのとき、通勤用のコ◯チのサッチェルバッグから、スマホのバイブ音がした。

   スマホのディスプレイには「栞しおり」と出ていた。たった一人の妹の名前だ。


「……もしもし、栞？」
   タップしてL◯NE通話に出る。

『おねえちゃん、今、大丈夫？』

「大丈夫やけど、どしたん？」
   稍に方言が出る。

『あのなぁ……おとうさんが……』

   一拍、間が空いた。

『……再婚する、って言うてはる』

   稍と栞の両親は長年別居していたが、昨年ようやく離婚した。それに伴って、稍も栞も母親の旧姓を名乗るようになった。

「ん……おとうさんかってまだ五〇代やし、長いこと別居してはったし、仕方しゃあないんとちゃう？……栞ちゃんは反対なん？」

   大学を卒業して東京の会社に就職するまで、稍は実家で父と栞と三人で住んでいた。
   だが、栞はこの春大学院の博士課程を修了しても、実家で父と暮らしていたはずだ。

——あ、新しい「奥さん」と一緒に住むんがイヤなんやろうか。

『あんなぁ……再婚する相手がなぁ……結花ゆかやねん』

「……は？」

   稍の知る「結花」はただ一人である。

   栞の、小学生の頃からの親友だ。年齢はもちろん、栞と同じ歳である。

   栞は父親が三二歳のときの子どもだ。つまり、それが再婚相手との年齢差となる。一生、増えもしなければ減りもしない。

   栞はさらに衝撃的なことを告げた。

『結花のお腹の中には……赤ちゃんがおるねん』