7 / 150
Chapter 1
再会 ⑤
しおりを挟む上座であるテーブルの奥に座っていた、ダークネイビーのスリーピースの人が、タブレットから顔を上げた。
三十代半ばと思われる、前髪をヘアワックスで後ろへ流した黒髪のその人は、今流行りの塩顔で、いかにも仕事のできそうなクールでシャープな雰囲気だった。
——うっわ! めっちゃカッコいいっ‼︎
先刻の山口や石井もなかなかだったが、この人はダントツだ。
それにしても、この会社の男子はレベルが高すぎる。稍は先月まで勤務していた某証券会社本店と較べて、心の中で断言した。
—— 水島課長や上條課長が本社へ異動するまでは、じゅうぶん「対抗」できたんだけどなぁ。
「MD課、課長の魚住だ。こいつらのチームは曲者揃いだからな。大変だろうが、がんばってくれよ」
課長の魚住 和哉はそう言って、屈託なく笑った。とたんに、いたずらっ子の少年みたいな笑顔になる。
——うっわ!この人、絶対モテるだろうなぁ。
「や…八木 梢です。派遣で働くのは初めてで、なにかとご迷惑をかけるとは思いますが、精一杯がんばりますのでよろしくお願いいたします」
稍は課長には四五度のお辞儀をした。
「へぇ……君、綺麗なお辞儀をするな」
魚住が腕を組んで、感心した声を出す。
ちらりと見えた左手には、薬指にプラチナの指輪が光っていた。
——既婚者だったか。役職付きだし、この風貌だ。あたりまえか。
六月に結婚するはずだった稍は、マリッジリングのカタログを取り寄せて、あれこれ検討していた。
——あのカーブのラインから推測すると、カルテ◯エのバレリーナかな?
課長の左手薬指の優美な曲線のデザインを見て思い出した。
『こんなオカマみたいなの、男で似合うヤツいるのかよ。おれはイヤだぜ』
と、婚約者だった野田が拒否ったリングだ。
課長の細長い指にそのバレリーナは、おそろしく似合っていた。
ここにいるよ、と稍は思って、思わず噴き出しそうになった。
「……綺麗なお辞儀でしょう?」
なぜか、稍よりも麻琴の方が得意げだ。
「でもね、魚住課長こそ『最敬礼』がすっごくてね。『伝家の宝刀』って呼ばれてるのよ。機会があれば、ぜひ見るべきね」
「……無駄口を叩いてないで、早く業務についたらどうだ?」
下座になるテーブルの手前に座り、入り口からは背を向けてタブレットを操作していた、ダークグレーのスーツの人から、不機嫌な声が返ってきた。
その人が、振り向く。
課長と同じようなヘアワックスで流した黒髪なのに、なぜか一分の隙もなく感じた。
窓から差し込む陽光がリムレスの眼鏡のレンズに反射して、キラリと光る。
やわらかな暖かい日差しのはずが、一気に冷え切り、いきなり室内の気温が下がったような気がした。
絶対に会いたくなかった顔が、そこにあった。
「チームリーダーの青山だ」
——あ、あ、あいつだ。
今日はエイプリルフール。だから、これはタチの悪いドッキリではなかろうか。
——な、な、なんで、配属先があいつのチームなのようっ。
目の前には小学校のときの同級生……
青山 智史がいた。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完】秋の夜長に見る恋の夢
Bu-cha
恋愛
製薬会社の社長の一人娘、小町には婚約者がいる。11月8日の立冬の日に入籍をする。
好きではない人と結婚なんてしない。
秋は夜長というくらいだから、恋の夢を見よう・・・。
花が戦場で戦う。この時代の会社という戦場、そして婚約者との恋の戦場を。利き手でもない左手1本になっても。
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位
他サイトにて溺愛彼氏特集で掲載
関連物語
『この夏、人生で初めて海にいく』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『女神達が愛した弟』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位
『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 12位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『拳に愛を込めて』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位
『死神にウェディングドレスを』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『お兄ちゃんは私を甘く戴く』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高40位

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
そんな目で見ないで。
春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。
勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。
そのくせ、キスをする時は情熱的だった。
司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。
それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。
▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。
▼全8話の短編連載
▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる