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Chapter 1
再会 ③
しおりを挟むところで、稍が「MD課」ってなにをするところ?……という顔をしていたら、歩きながら女子社員が教えてくれた。
「マーチャンダイジング課の略よ。プライベートブランド事業部の中にあるんだけど、商品の企画から開発そして販売促進や営業に至るまで、小規模なチームでやっているの。だから、扱っているのは定番商品よりも、アイディア商品とか変わったものになるわね。もともと、商品化されても大量生産されるわけじゃないしね」
稍は、少数精鋭で他にはない商品づくりをするなんて、おもしろそうな部署だな、と思った。
「MD課では、それぞれのチームリーダーが他部署からほしい人材をスカウトしてきて、チームでマーチャンダイザーをやってるんだけど、メンバーたちが専門化した業務形態で好き勝手にやってるもんだから、雑用が溜まっちゃってね。……そういったものを処理するのが、あなたの仕事だと思ってね」
女子社員は、デスクというよりもカフェのテーブルにしか見えないスペースに入って行き、
「山口さん、今日からの、そちらのチームのハケンさんをお連れしましたよ」
と言って、稍には見せなかったにこやかな笑顔を向けている。
「じゃぁ、お願いしますねぇ」
心なしか甘ったるく言って、彼女は元来た道を戻って行った。
テーブルでユニ◯ットのコーヒーを飲みながら、タブレットを操作していた人が顔を上げた。
その人は身体に沿った細身のライトグレーのスーツを着ていた。二〇代後半だろうか、今流行りのツーブロックの黒髪の彼は、さわやかイケメンと言ってよかった。
先程の女子社員が甘ったるい声になった理由がわかった。
この会社は見たところ、カジュアルな服装が許容されているらしく、男性でもコットンニットにチノパンはまだマシな方で、Tシャツにデニムの人までいた。
女性もプルオーバーやチュニックに、動きやすそうなガウチョパンツやフレアスカートを合わせた人が多かった。人事課の女子社員もそうだった。
その人は稍の風貌を見たとたん、ほんの一瞬であったが、顔を露骨に歪めた。正直な人である。
だが、すぐに「態勢」を立て直した。見事な「反射神経」の人だ。
「おれは、山口 悠斗。入社七年目の二九歳で、このチームでは最年少だ。チームの中では取引先との渉外をやる営業担当だから、スーツを着てる。きみは初日だからスーツ姿なのかな?でも、明日からはもっと動きやすい服で来なよ。その方がこっちも仕事を頼みやすい」
稍は「はい」と答えてから、
「八木 梢と申します。派遣で働くのは初めてなので、慣れないうちはご迷惑をおかけします」
ゆったりと三〇度のお辞儀をした。
だが、山口はもうタブレットに目を落としていて、稍の方を見向きもしなかった。
やっぱり、正直な人だ。
「……あら、あなたが今日からのハケンさんね。うちのチームにもやっと入ったのね」
稍は「光」がやってきた、と思った。
確かに、大きな窓を背にして颯爽と歩く姿は逆光を背にしてはいたが、それだけではない。
アイシーブルーのトップスとスカンツのセットアップを身に纏って目の前に現れた女性は、とにかく顔立ちもスタイルも抜群に美しかった。
無理に若づくりする様子がまったくないため、年相応の外見だと思う。三〇歳前後であろうか。
また、身長一六〇センチの稍よりさらに五センチ以上高そうだ。グレージュの柔らかなウェーブのロングヘアを、後ろでふんわりとバレッタで留めている。
稍の引っ詰め髪とは雲泥の差だ。
「あ、麻琴さん」
山口がタブレットから顔を上げて、にっこりと微笑んだ。自分の心に忠実すぎる人だ。
「気をつけてね。山口くんは社内一のモテ男だから。迂闊に仲よさそうにしてると、いつの間にか女子社員たちからハブられるわよ」
「麻琴さんっ!」
山口が苦虫を噛み潰したような顔になった。朝から表情が忙しい人だ。
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