偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
5 / 150
Chapter 1

再会 ③

しおりを挟む

   ところで、稍が「MD課」ってなにをするところ?……という顔をしていたら、歩きながら女子社員が教えてくれた。

マーチャンMダイジング課Dの略よ。プライベートPブランドB事業部の中にあるんだけど、商品の企画から開発そして販売促進や営業に至るまで、小規模なチームでやっているの。だから、扱っているのは定番商品よりも、アイディア商品とか変わったものになるわね。もともと、商品化されても大量生産されるわけじゃないしね」

   稍は、少数精鋭で他にはない商品づくりをするなんて、おもしろそうな部署だな、と思った。

「MD課では、それぞれのチームリーダーが他部署からほしい人材をスカウトしてきて、チームでマーチャンダイザーをやってるんだけど、メンバーたちが専門化した業務形態で好き勝手にやってるもんだから、雑用が溜まっちゃってね。……そういったものを処理するのが、あなたの仕事だと思ってね」

   女子社員は、デスクというよりもカフェのテーブルにしか見えないスペースに入って行き、
山口やまぐちさん、今日からの、そちらのチームのハケンさんをお連れしましたよ」
と言って、稍には見せなかったにこやかな笑顔を向けている。

「じゃぁ、お願いしますねぇ」
   心なしか甘ったるく言って、彼女は元来た道を戻って行った。


   テーブルでユニ◯ットのコーヒーを飲みながら、タブレットを操作していた人が顔を上げた。

   その人は身体からだに沿った細身のライトグレーのスーツを着ていた。二〇代後半だろうか、今流行はやりのツーブロックの黒髪の彼は、さわやかイケメンと言ってよかった。 

   先程の女子社員が甘ったるい声になった理由がわかった。

   この会社は見たところ、カジュアルな服装が許容されているらしく、男性でもコットンニットにチノパンはまだマシな方で、Tシャツにデニムの人までいた。   

   女性もプルオーバーやチュニックに、動きやすそうなガウチョパンツやフレアスカートを合わせた人が多かった。人事課の女子社員もそうだった。

   その人は稍の風貌を見たとたん、ほんの一瞬であったが、顔を露骨に歪めた。正直な人である。

   だが、すぐに「態勢」を立て直した。見事な「反射神経」の人だ。

「おれは、山口 悠斗ゆうと。入社七年目の二九歳で、このチームでは最年少だ。チームの中では取引先との渉外をやる営業担当だから、スーツを着てる。きみは初日だからスーツ姿なのかな?でも、明日からはもっと動きやすい服で来なよ。その方がこっちも仕事を頼みやすい」

   稍は「はい」と答えてから、
「八木 こずえと申します。派遣で働くのは初めてなので、慣れないうちはご迷惑をおかけします」
   ゆったりと三〇度のお辞儀をした。

   だが、山口はもうタブレットに目を落としていて、稍の方を見向きもしなかった。

   やっぱり、正直な人だ。


「……あら、あなたが今日からのハケンさんね。うちのチームにもやっと入ったのね」

   稍は「光」がやってきた、と思った。

   確かに、大きな窓を背にして颯爽と歩く姿は逆光を背にしてはいたが、それだけではない。

   アイシーブルーのトップスとスカンツのセットアップを身に纏って目の前に現れた女性は、とにかく顔立ちもスタイルも抜群に美しかった。
   無理に若づくりする様子がまったくないため、年相応の外見だと思う。三〇歳前後であろうか。

   また、身長一六〇センチの稍よりさらに五センチ以上高そうだ。グレージュの柔らかなウェーブのロングヘアを、後ろでふんわりとバレッタで留めている。
   稍の引っ詰め髪とは雲泥の差だ。

「あ、麻琴まことさん」

   山口がタブレットから顔を上げて、にっこりと微笑んだ。自分の心に忠実すぎる人だ。

「気をつけてね。山口くんは社内一のモテ男だから。迂闊に仲よさそうにしてると、いつの間にか女子社員たちからハブられるわよ」

「麻琴さんっ!」

   山口が苦虫を噛み潰したような顔になった。朝から表情が忙しい人だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha
恋愛
製薬会社の社長の一人娘、小町には婚約者がいる。11月8日の立冬の日に入籍をする。 好きではない人と結婚なんてしない。 秋は夜長というくらいだから、恋の夢を見よう・・・。 花が戦場で戦う。この時代の会社という戦場、そして婚約者との恋の戦場を。利き手でもない左手1本になっても。 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位 他サイトにて溺愛彼氏特集で掲載 関連物語 『この夏、人生で初めて海にいく』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 『女神達が愛した弟』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位 『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 12位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『拳に愛を込めて』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位 『死神にウェディングドレスを』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『お兄ちゃんは私を甘く戴く』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高40位

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

処理中です...