11 / 19
大掃除の日:金
第1話
しおりを挟む
今朝はいつもより玄関の掃除が早く終わってしまった。
起きた時間が早かったからではない。
不慣れとはいえ、二人がかりだったので必然だったのだ。
それに、アンリエッタは要領もよく、教えたことがすぐにできるし、覚えも良い。
これなら明日以降は一人で玄関の掃除を任せても、こなせるだろう。
「けんど、参っただな。朝食までだいぶ時間が余っちまっただ」
かといって、自分たちの食事のために寝ているマリリンやコックのジョニーさんを起こすのも気が引ける。
途方に暮れていたら、アンリエッタがサラの隣りに来て言った。
「……あの、サラさん。昨日言ってましたよね。自分の住むところが魔物に襲われてなくなってしまったって……」
「ああ、んだよ。わだすが生きてんのはきっど、運がよがったからでねーの?」
なくなってしまったのは家だけではない。
両親も、そして集落そのものさえ……。
「どうして、そんなに笑っていられるんですか? 悲しくはないんですか?」
なんだか、アンリエッタの方がよほど当事者であるかのように気持ちをぶつけてきた。
応えないわけにはいかない。
「……悲しくねーっつったら、嘘になるべな。でんも、なくなっぢまったもんをいつまでも嘆いても仕方ねえ。わだすは今生きていて、命の尊さを知っでっから、精一杯楽しく生きなぎゃもったいねー。ただ、それだけなんよ」
「…………強いんですね……」
「あははっ、んなことねーべ。ただ、脳天気なだけだで」
「いいえ、きっとそれが強いってことだと思います」
アンリエッタはそう言って空を仰いだ。
「……私も、サラさんのように強くなりたい……」
ポツリと、願いのような言葉を零して。
「んなら、まずは腹ごしらえしねーとな。そろそろマリリンだちが起きてくるでな」
「……はいっ」
少しだけ考えるような仕草をしてから、力強く頷いた。
集めておいた掃除道具を持って、サラとアンリエッタはマリリン亭の中へ戻った。
「今日は週に一度の大掃除の日だでな。ちゃんと朝飯くってねーと大変だっぺ」
朝食の後、酒場ホールにルームメイドたちが全員集められた。
いつになく真剣な眼差しでマリリンがサラたちを見回す。
「今日がどういう日か、あんたたちはわかってるんでしょうね?」
試すようにアンリエッタ以外に目配せをする。
「当たり前よ。明日からの週末に備えて、できうる限りの準備をする」
メイドたちのリーダーを自負するリータ先輩が自信たっぷりに答えた。
「――そうっ!」
手を腰に当てて、マリリンは踏ん反り返った。
体が大きいからそれだけでかなり迫力がある。
アンリエッタは堪らず初めてマリリンを見た時のようにサラの腕にしがみついて隠れてしまった。
「今週は予約も入っているのよ! つまり、今週の収支を左右する週末といっていいわ!! 最高のおもてなしをするためには、最高の準備が必要不可欠!! 張り切っていくわよっ!!」
『はいっ!』
ルームメイドたちの声が重なる。
「それじゃあ、今日の仕事を割り振るわね! まずリータとレイナ!」
『はいっ!』
リータ先輩とレイナ先輩が軍人のように揃って一歩前に出た。
「あんたたちはジョニーと一緒に明日出す料理の仕込みをお願いするわっ!!」
『はいっ!!』
さっき、軍隊のように、と思ったけど……。
ようにではなくて、まさに軍隊の軍令そのものだ。
マリリンの容姿が女将というより国軍の隊長でもやっていた方が似合っているので、まさにその雰囲気が出ている。
「それから、サラとアンリエッタ! あんたたちは各部屋の大掃除をお願いするわっ!! 塵一つ、埃一つでも残したら許さないわよっ!!」
「はいっ!!」
返事をするだけでも気合いが入るってもの。
でも、アンリエッタには少し厳しかったかな。
「は、はい……!」
涙目になりながら、アンリエッタは一応返事はできた。
「ねぇ、どうでもいいけど、私のチェックアウトすませてくれないかしら?」
全員の気合いが入ったところで、それを腰砕けにさせるような気怠い声でベローナさんが言った。
「……あのねえ、少しは場の空気を読みなさいよっ。まったく……」
ぶつくさ言いながらもマリリンは宿屋の受付カウンターへ向かった。
「あ、そんじゃ荷馬車はわだすが用意すっから」
若干掃除が遅れてしまうが仕方がない。
言いながら、倉庫の鍵を投げてくるのを待っていたら、
「いいわ、サラ。ベローナの相手はあたしがするから、あんたたちは仕事に取りかかって頂戴」
「あ、はい」
サラたちメイドが忙しいのはマリリンが一番わかっているから配慮してくれたのだろう。
こういう時は素直に甘えさせてもらう。
すでにリータ先輩とレイナ先輩の姿はない。
キッチンで仕事を始めているのだ。
「ほんじゃ、まずは掃除道具を持ってくっか」
「……あ、はい」
アンリエッタの肩を叩くと、ようやく気持ちが落ち着いたのか、さっきまでの泣き顔はどこかへ行ってしまった。
裏庭から掃除道具を一式持ってくる。
今までの掃除では使わなかったような小さなモップやバケツも。
酒場ホールへ戻ると、すでに受付のところにはベローナさんもマリリンもいなかった。
さっきまでの熱気はどこへやら。
閑散とした空気が漂っていた。
……それだけじゃないような……。
「はぁ……」
「ありゃ? どーしたん?」
どんよりとした空気をアンリエッタが出していた。
「大掃除なのに、私とサラさんしかいないんだと思ったら、少し不安になっただけです」
まあ、そう思うのも無理はないだろう。
本当はサラ一人でも十分なのだが、それはいずれわかることだ。
言葉で説明するより、実際に見せた方が話は早いし。
「心配すんなや。とにかく、椅子とテーブルを運んじまうべ」
「……はい」
普段の掃除だと、椅子やテーブルは動かさない。
モップだって軽く掛ける程度だ。
だから今日は掃除のスタートからしていつもと違う。
まずは酒場ホールの東側を掃除するために、テーブルと椅子を西側に寄せる。
椅子はともかく、大型のテーブルは一人では動かせない。
「アンリエッタ、そっちの端を持ってくんねか?」
「はい」
「重がったら、言っでな」
「……大丈夫です。これくらいなら」
さっきまで不安そうな表情をさせていたのに、仕事が始まると真剣になれる。
根が真面目なのだろう。アンリエッタのいいところだ。
テーブルや椅子が片付くと、酒場ホールはだいたい半分くらいの広さになる。
ただ、その半分のスペースには今、何も置かれていないから狭くは感じない。
「サラさん、次は何をすれば……?」
言いながらアンリエッタはほうきとちりとりの準備をしようとしていた。
「あ、今日はまだそれは使わねんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、まんずはこれからだ」
言って、サラは先が横に長いブラシのようなモップを持った。
これで広くなったスペースのゴミや埃を一気に集める。
「……あれ? でも、サラさん。そのモップ一つしかありませんよ」
「ん? そりゃ、二つも必要ねーかんな」
「……それじゃあ、私はどうしたら……?」
「アンリエッタはそっちのテーブルがある方で休んでてくんろ」
訝しげな表情で首をかしげつつ、アンリエッタは言われた通りにした。
「――さ、よーぐ見でな。これがわだすの本気だで!!」
モップを両手に持ち、構える。
目に力を込めて、キッとホールの東側を見据える。
サラの瞳に映るのは床に落ちているホコリとゴミだけ。
そして、一気にモップを走らせる。
サラの瞳に捉えられたホコリやゴミたちは、まるでサラと踊るかのように、モップに絡み取られていく。
ダンッと音を立ててホールの端にモップが突き立てられる。
そこにはホールの東側に落ちていたホコリやゴミがまとめられていた。
サラは幼い頃小さな集落で自給自足の生活をしていた。
両親は食事のために猟師や畑仕事をしていたので、自然と家事はサラがやるようになっていた。
料理は母が得意だったので、掃除や洗濯を進んでやるようにした。
そのお陰か、いつしかサラは効率のいい掃除を身につけていったのだ。
これくらいの広さの部屋なら、二往復するだけで片づく。
むしろ、誰もいない方が効率がいいのだ。
「……す、すごいです……」
「そりゃどーも。アンリエッタ、ほうきとちりとりいーかんな?」
「あ、はい!」
アンリエッタは少し興奮気味に、ほうきとちりとりを持ってきた。
「私、あんなの見たことありませんでした。まるで、サラさんがモップを使ってホコリやゴミと舞い踊っているみたいで……見とれている間にモップがけが終わっていました」
「そんりゃ言い過ぎだっぺ」
いつもの朗らかな目で笑った。
ほうきとちりとりで集められたホコリやゴミを掃きとる。
「さ、次は水拭きだなや」
「サラさん。いえ、師匠。水拭き用のモップはこちらに用意してあります」
「アンリエッタ、師匠ってわだすのことかや?」
「はいっ!」
なんか、余計なものを見せてしまったのかも。
サラを見るアンリエッタの目の輝きが違う。
「わだすは師匠なんて呼ばれるような人間じゃねーんだけんども……。ま、とにかく水拭きしちまうべ」
「師匠、私はやっぱりお邪魔にならないように、ここにいた方がいいですか?」
アンリエッタはさっきと同じ場所に立っていた。
……ただ、さっきと違うのはまるで舞台を見る観客のように身を乗り出している。
「……んだな。そこで大人しくしてくんねか」
「はいっ」
さっきと同じように水拭き用のモップを構える。
再び目つきは鋭くなり、床を睨みつける。
サラは大きく息を吐き出して――ホールの東側を駆け抜けた。
まるでホールの中に新しく床板を貼り付けているかのごとく、サラが通った後の床はキラキラ輝いていた。
酒場ホールは掃除が終わった東側だけ、新築のよう。
アンリエッタはただただ驚いて声も出せていなかった。
起きた時間が早かったからではない。
不慣れとはいえ、二人がかりだったので必然だったのだ。
それに、アンリエッタは要領もよく、教えたことがすぐにできるし、覚えも良い。
これなら明日以降は一人で玄関の掃除を任せても、こなせるだろう。
「けんど、参っただな。朝食までだいぶ時間が余っちまっただ」
かといって、自分たちの食事のために寝ているマリリンやコックのジョニーさんを起こすのも気が引ける。
途方に暮れていたら、アンリエッタがサラの隣りに来て言った。
「……あの、サラさん。昨日言ってましたよね。自分の住むところが魔物に襲われてなくなってしまったって……」
「ああ、んだよ。わだすが生きてんのはきっど、運がよがったからでねーの?」
なくなってしまったのは家だけではない。
両親も、そして集落そのものさえ……。
「どうして、そんなに笑っていられるんですか? 悲しくはないんですか?」
なんだか、アンリエッタの方がよほど当事者であるかのように気持ちをぶつけてきた。
応えないわけにはいかない。
「……悲しくねーっつったら、嘘になるべな。でんも、なくなっぢまったもんをいつまでも嘆いても仕方ねえ。わだすは今生きていて、命の尊さを知っでっから、精一杯楽しく生きなぎゃもったいねー。ただ、それだけなんよ」
「…………強いんですね……」
「あははっ、んなことねーべ。ただ、脳天気なだけだで」
「いいえ、きっとそれが強いってことだと思います」
アンリエッタはそう言って空を仰いだ。
「……私も、サラさんのように強くなりたい……」
ポツリと、願いのような言葉を零して。
「んなら、まずは腹ごしらえしねーとな。そろそろマリリンだちが起きてくるでな」
「……はいっ」
少しだけ考えるような仕草をしてから、力強く頷いた。
集めておいた掃除道具を持って、サラとアンリエッタはマリリン亭の中へ戻った。
「今日は週に一度の大掃除の日だでな。ちゃんと朝飯くってねーと大変だっぺ」
朝食の後、酒場ホールにルームメイドたちが全員集められた。
いつになく真剣な眼差しでマリリンがサラたちを見回す。
「今日がどういう日か、あんたたちはわかってるんでしょうね?」
試すようにアンリエッタ以外に目配せをする。
「当たり前よ。明日からの週末に備えて、できうる限りの準備をする」
メイドたちのリーダーを自負するリータ先輩が自信たっぷりに答えた。
「――そうっ!」
手を腰に当てて、マリリンは踏ん反り返った。
体が大きいからそれだけでかなり迫力がある。
アンリエッタは堪らず初めてマリリンを見た時のようにサラの腕にしがみついて隠れてしまった。
「今週は予約も入っているのよ! つまり、今週の収支を左右する週末といっていいわ!! 最高のおもてなしをするためには、最高の準備が必要不可欠!! 張り切っていくわよっ!!」
『はいっ!』
ルームメイドたちの声が重なる。
「それじゃあ、今日の仕事を割り振るわね! まずリータとレイナ!」
『はいっ!』
リータ先輩とレイナ先輩が軍人のように揃って一歩前に出た。
「あんたたちはジョニーと一緒に明日出す料理の仕込みをお願いするわっ!!」
『はいっ!!』
さっき、軍隊のように、と思ったけど……。
ようにではなくて、まさに軍隊の軍令そのものだ。
マリリンの容姿が女将というより国軍の隊長でもやっていた方が似合っているので、まさにその雰囲気が出ている。
「それから、サラとアンリエッタ! あんたたちは各部屋の大掃除をお願いするわっ!! 塵一つ、埃一つでも残したら許さないわよっ!!」
「はいっ!!」
返事をするだけでも気合いが入るってもの。
でも、アンリエッタには少し厳しかったかな。
「は、はい……!」
涙目になりながら、アンリエッタは一応返事はできた。
「ねぇ、どうでもいいけど、私のチェックアウトすませてくれないかしら?」
全員の気合いが入ったところで、それを腰砕けにさせるような気怠い声でベローナさんが言った。
「……あのねえ、少しは場の空気を読みなさいよっ。まったく……」
ぶつくさ言いながらもマリリンは宿屋の受付カウンターへ向かった。
「あ、そんじゃ荷馬車はわだすが用意すっから」
若干掃除が遅れてしまうが仕方がない。
言いながら、倉庫の鍵を投げてくるのを待っていたら、
「いいわ、サラ。ベローナの相手はあたしがするから、あんたたちは仕事に取りかかって頂戴」
「あ、はい」
サラたちメイドが忙しいのはマリリンが一番わかっているから配慮してくれたのだろう。
こういう時は素直に甘えさせてもらう。
すでにリータ先輩とレイナ先輩の姿はない。
キッチンで仕事を始めているのだ。
「ほんじゃ、まずは掃除道具を持ってくっか」
「……あ、はい」
アンリエッタの肩を叩くと、ようやく気持ちが落ち着いたのか、さっきまでの泣き顔はどこかへ行ってしまった。
裏庭から掃除道具を一式持ってくる。
今までの掃除では使わなかったような小さなモップやバケツも。
酒場ホールへ戻ると、すでに受付のところにはベローナさんもマリリンもいなかった。
さっきまでの熱気はどこへやら。
閑散とした空気が漂っていた。
……それだけじゃないような……。
「はぁ……」
「ありゃ? どーしたん?」
どんよりとした空気をアンリエッタが出していた。
「大掃除なのに、私とサラさんしかいないんだと思ったら、少し不安になっただけです」
まあ、そう思うのも無理はないだろう。
本当はサラ一人でも十分なのだが、それはいずれわかることだ。
言葉で説明するより、実際に見せた方が話は早いし。
「心配すんなや。とにかく、椅子とテーブルを運んじまうべ」
「……はい」
普段の掃除だと、椅子やテーブルは動かさない。
モップだって軽く掛ける程度だ。
だから今日は掃除のスタートからしていつもと違う。
まずは酒場ホールの東側を掃除するために、テーブルと椅子を西側に寄せる。
椅子はともかく、大型のテーブルは一人では動かせない。
「アンリエッタ、そっちの端を持ってくんねか?」
「はい」
「重がったら、言っでな」
「……大丈夫です。これくらいなら」
さっきまで不安そうな表情をさせていたのに、仕事が始まると真剣になれる。
根が真面目なのだろう。アンリエッタのいいところだ。
テーブルや椅子が片付くと、酒場ホールはだいたい半分くらいの広さになる。
ただ、その半分のスペースには今、何も置かれていないから狭くは感じない。
「サラさん、次は何をすれば……?」
言いながらアンリエッタはほうきとちりとりの準備をしようとしていた。
「あ、今日はまだそれは使わねんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、まんずはこれからだ」
言って、サラは先が横に長いブラシのようなモップを持った。
これで広くなったスペースのゴミや埃を一気に集める。
「……あれ? でも、サラさん。そのモップ一つしかありませんよ」
「ん? そりゃ、二つも必要ねーかんな」
「……それじゃあ、私はどうしたら……?」
「アンリエッタはそっちのテーブルがある方で休んでてくんろ」
訝しげな表情で首をかしげつつ、アンリエッタは言われた通りにした。
「――さ、よーぐ見でな。これがわだすの本気だで!!」
モップを両手に持ち、構える。
目に力を込めて、キッとホールの東側を見据える。
サラの瞳に映るのは床に落ちているホコリとゴミだけ。
そして、一気にモップを走らせる。
サラの瞳に捉えられたホコリやゴミたちは、まるでサラと踊るかのように、モップに絡み取られていく。
ダンッと音を立ててホールの端にモップが突き立てられる。
そこにはホールの東側に落ちていたホコリやゴミがまとめられていた。
サラは幼い頃小さな集落で自給自足の生活をしていた。
両親は食事のために猟師や畑仕事をしていたので、自然と家事はサラがやるようになっていた。
料理は母が得意だったので、掃除や洗濯を進んでやるようにした。
そのお陰か、いつしかサラは効率のいい掃除を身につけていったのだ。
これくらいの広さの部屋なら、二往復するだけで片づく。
むしろ、誰もいない方が効率がいいのだ。
「……す、すごいです……」
「そりゃどーも。アンリエッタ、ほうきとちりとりいーかんな?」
「あ、はい!」
アンリエッタは少し興奮気味に、ほうきとちりとりを持ってきた。
「私、あんなの見たことありませんでした。まるで、サラさんがモップを使ってホコリやゴミと舞い踊っているみたいで……見とれている間にモップがけが終わっていました」
「そんりゃ言い過ぎだっぺ」
いつもの朗らかな目で笑った。
ほうきとちりとりで集められたホコリやゴミを掃きとる。
「さ、次は水拭きだなや」
「サラさん。いえ、師匠。水拭き用のモップはこちらに用意してあります」
「アンリエッタ、師匠ってわだすのことかや?」
「はいっ!」
なんか、余計なものを見せてしまったのかも。
サラを見るアンリエッタの目の輝きが違う。
「わだすは師匠なんて呼ばれるような人間じゃねーんだけんども……。ま、とにかく水拭きしちまうべ」
「師匠、私はやっぱりお邪魔にならないように、ここにいた方がいいですか?」
アンリエッタはさっきと同じ場所に立っていた。
……ただ、さっきと違うのはまるで舞台を見る観客のように身を乗り出している。
「……んだな。そこで大人しくしてくんねか」
「はいっ」
さっきと同じように水拭き用のモップを構える。
再び目つきは鋭くなり、床を睨みつける。
サラは大きく息を吐き出して――ホールの東側を駆け抜けた。
まるでホールの中に新しく床板を貼り付けているかのごとく、サラが通った後の床はキラキラ輝いていた。
酒場ホールは掃除が終わった東側だけ、新築のよう。
アンリエッタはただただ驚いて声も出せていなかった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
『застежка-молния。』
日向理
ファンタジー
2022年9月1日(木)〜2022年12月6日(火)全69回
月〜金曜0時更新
『手のひら。』『Love Stories。』の直接の続編となります。
現実世界の、ちょっと先にある、ちょっと不思議なお話。
脳内で自己構築をしまくって、お楽しみください。
『застежка-молния。』はト書きの全く存在しない、全く新しい読み物。
『文字を楽しむ』という意味でジャンルは『文楽(ぶんがく)』と命名しております。
小説とは異なり、読み手の想像力によって様々に質感が変化をします。
左脳・理論派の方には不向きな読みものですが、
右脳・感覚派の方はその、自由に構築できる楽しさを理解できるかもしれません。
『全く新しい読み物』なので抵抗感があるかもしれません。
お話も、一度読んで100%解るような作りに敢えてしておりません。
何度も反芻してゆくうちに、文楽(ぶんがく)ならではの醍醐味と、
自分の中で繰り広げられる物語にワクワクする事でしょう。
『застежка-молния。』は自身のホームページ
( https://osamuhinata.amebaownd.com )にて
2021年8月1日〜2022年1月20日まで既に連載を終えたものです。
*文楽(ぶんがく)は、フォント・文字サイズ・センタリング等
リッチテキスト形式を駆使した作りになっております。
本サイトでは形式上、簡易版となっていますので、予めご了承ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。
新名天生
恋愛
クラスカースト最下位、存在自体録に認識されていない少年真、彼はクラス最上位、学園のアイドル、薬師丸 泉に恋をする。
身分の差、その恋を胸に秘め高校生活を過ごしていた真。
ある日真は父の再婚話しを聞かされる、物心付く前に母が死んで十年あまり、その間父一人で育てられた真は父の再婚を喜んだ。
そして初めて会う新しく出来る家族、そこに現れたのは……
兄が欲しくて欲しくて堪らなかった超ブラコンの義妹、好きで好きで堪らないクラスメイトが義理の妹になってしまった兄の物語
『妹に突然告白されたんだが妹と付き合ってどうするんだ』等、妹物しか書けない自称妹作家(笑)がまた性懲りも無く新作出しました。
『クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた』
二人は本当の兄妹に家族になるのか、それとも……
(なろう、カクヨムで連載中)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ヤンキーVS魔法少女
平良野アロウ
ファンタジー
<1/23更新の130話までは毎日更新、1/30更新の131話以降は隔週日曜日更新に変わります>
最強無敗の不良男子高校生である最強寺拳凰は、ある日公園で戦う二人の魔法少女と出会う。
強敵との戦いに飢えていた拳凰は魔法少女の人智を超えた強さに感銘を受け戦いを挑むが、全く相手にされることなくあっという間に倒されてしまった。
それから八ヶ月後、山篭りの修行を終えた拳凰は、再び魔法少女と邂逅。
妖精界と呼ばれる異世界の者達が人間界の少女を使って行う祭り「魔法少女バトル」。その参加者である魔法少女達に、拳凰は次々と戦いを挑む。
そして魔法少女バトルの裏で巻き起こる陰謀が、拳凰の運命を大きく変えてゆく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
拝啓、くそったれな神様へ
Happy
ファンタジー
名前もない下位神のミスによって死んでしまった主人公。責任を取るように上位神に言われ、下位神は主人公に自分の加護を与える。最初は下位神とはいえ神様の加護をもらえてウハウハしていた主人公だが、、、 あれ、何か思ってたのと違う…俺TUEEEEじゃない… しかも加護持続しすぎじゃない??加護っていつ消えんの?おい!下位神!出てこい!!加護を取り消せ!! 俺を解放しろ!!!これは主人公が様々な異世界へ渡り、多くの物語を記憶し、記録していく異世界物語。
偽姫ー身代わりの嫁入りー
水戸けい
恋愛
フェリスは、王女のメイドだった。敗戦国となってしまい、王女を差し出さねばならなくなった国王は、娘可愛さのあまりフェリスを騙して王女の身代わりとし、戦勝国へ差し出すことを思いつき、フェリスは偽の王女として過ごさなければならなくなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる