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七設立と死

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七設立と死

 シリパの会の発足から半年が過ぎ会員数も二十二名とふえた。 
一回の受講者が制限しても十人を越える時がある。 十人を越えるとママの居酒屋では手狭になり
会場を借りることになった。 緊急にママの処に集まって相談した。  

ケンタが「シリパの会も発足以来、半年で二十二名。 我々含め二十六名か。先週も人数制限して
断った会員さんも出る程だったよ。 それでも八名、新しい人を僕は優先させたいけど調整が
取りにくいのが現状なんだ。 僕達も休み返上なんだよね。 
で、今後の方向性を決めたくて集まってもらったんだ」 

 京子が「私もそれ考えてたよ。 新しい人も会員さんも入会金貰ってるから絶対におろそかに出来ないよ」 

「僕は誰か専属に、受講者の振り分けや会場の手配。 三ヶ月に一回のミーティング会などを取り仕切る、
事務局的なものを置いたらどうかなと思うんだ。 それと毎週四人でなく二人とかの
当番制にしたらと思うけど?」  

京子が「ケンタくん適任者は絞ってるの?」  

「京子ちゃんかメメちゃんと思ってるけど」  

「私、事務局的なものは性格上合わないよ。 メメちゃんはどう?」  

「私、毎週この仕事楽しみにしてるのね。 でも毎日仕事となると暇な時間が多くなると思うの。 
あんまり暇だと正直、耐えられないわ」  

ママが「こういうのはどう? 十五名ほど楽に入るくらいの店舗を借りるのよ。そして例えば
メメちゃんが普段は十時~十九時迄とか常駐するの。 ただ常駐するのでなくメメちゃんが一般相手の
チャネリング相談もするのよ。

当然手の空いている人も自由に手伝うのよ。 土曜日は全休で日曜日は講習会場にするの。 
その運営費の中からメメちゃんの給料分、当然、今と同額かそれ以上の給金で働いてもらうっていうのはどう?」 

京子が「そっか、そしたら一回の講習も人数制限無く出来るし、合わせて一般相談も出来る。 
それ好いわねママいい考えと思う」 

ケンタが「で、メメちゃんはどう?」 

「面白いです。 この会が本業になるなら会社辞めてもかまいません」 

京子が「じゃ、メメちゃんがいいなら決定!」

ケンタが「ママ凄いよ! さすが商売人」。


 北海道大学の通りで札幌駅と地下鉄12条駅の中間に学生が集まりそうなもと喫茶店を居抜きで借り、
簡単な手を加え全十五坪の手頃なシリパの会の事務所が出来た。  

初めは京子も夕方までチャネリングの手伝いに来てくれて順調な走り出しが出来た。 
会員数は五十名を超していた。 毎日のチャネリング相談者数は十名前後、ひと月に約二百名の
相談者を数えるまでになった。 京子もしばらく狸小路を留守にした。 
そんなある日、狸小路の仲間で絵描きのセキロウが遊びに来た。 

髪の毛がピンクでヒッピー風の出で立ち「あの~う、こちらにシリパさんって
オバサンなんだけど~いませんか?」  

奥の方から声がした「いませんけど」京子の声だった。 

髪をかき上げながら「おばさんってだれのことだい?」 

「セキロウです」 

「おうっセキロウか? お前誰のことをオバサンて言ってんだ。 で、どうした?」 

「シリパさんが来なくなったからみんな心配してますけど」 

「セキロウ、お前ハッキリ喋りなっていってんだろうが」 

「オス! スイマセン。 どうっすか?」 

「なにが?」 

「あっいやっそのう……」 

「ふふ、相変わらずだなお前は。 メメちゃんこいつ絵描きのセキロウっていうんだ。 
普段はこうだけど絵の才能は抜群。 そうだセキロウこの事務所に飾る絵を描いてよ、
私が三万円払う。 予算はそれしかないけどいいね! セキロウわかった?」

「……」 

「なに? 聞こえない返事は?」 

「ハイ」 

「よしコーヒーでも飲んでけ。 それと来週からまた狸小路に座るよ。 セキロウからみんなに伝えておいて」  

「ハイ!」 

「よし、いい返事」

それから数日が過ぎ狸小路に京子の顔があった。

京子が狸小路をぶらついた「おう、久しぶり。 みんな生きてたかい?」

「おう、新入りさんだね。こんばんわ、私シリパって言います。 そこで占いしてます。 宜しく」

「あっダイスケって言います。 お噂は聞いてます」 

「いい噂? 悪い噂?」 

「そりゃあ、いい噂です。 会えて光栄です」

「よろしく。 じゃあね」シリパはいつもの場所に座った。

シリパが座ってすぐだった。 突然遠くから大きな声が聞こえた。 程なくして救急車の音が
狸小路に響いた。

「誰か刺されたぞ! 絵を描いてる男だって」

シリパは胸騒ぎを感じ、現場に駆けつけた。 辺りは血が散乱していた。 野次馬をかき分け
運ばれる男を見た。 セキロウだった。 シリパは愕然として声が出なかった。

辺りに知ってる顔を探した。 いた。似顔絵描きのムラだ。

「おいムラっ! セキロウはどうした? 説明しろ」  

「シリパさん、セ、セ、セキロウが……」ムラはそのまま下を向いてしまった。

シリパはムラの頬を平手で殴った。 気を取り直したムラは深呼吸してから話し始めた。
 
「セキロウはシリパさんが店持ったからって、その店尋ねて行ったんだって。そしたらシリパさんが
出て来ていつものように相手してくれて、事務所にセキロウの絵が欲しいっていうから、
俺の絵を贈るんだって、あいつ凄くハリキッテたんだ。

あいつは何日か前から根詰めて一生懸命描いてたんだ。 そしたら、そしたら、さっき、
たまたまその絵を見た客がその絵を売れって言ったらしい。 この絵は大切な人への贈り物だから
違う絵にしてって言ったら、その言い方が悪いってそいつが言い掛かりつけてきたんだ。

そしたら、そいついきなりジャックナイフ取り出してきてセキロウの胸の辺りを刺しやがったんだ。 
そいつはまるで獣だ」

ムラはそのままヒザをついてしまった。

そこにあった絵は、南国の明るい日差しとヤシの木を描いたセキロウの人柄が込められた暖かい絵だった。
 
「ムラ、この絵がそうか……?」

「はい」 

「すまないけどこの絵をムラが保管してくれ。 また連絡する」

シリパは下を向いたままその場を立ち去った。 翌朝、セキロウは絵をシリパに渡すことが
出来ずにこの世を去った。
 
シリパは自宅からも姿を消し、数日間誰とも連絡を取らずにいた。 

一週間後、シリパは夜の狸小路を歩いていた。

「ムラッ! おいムラ!」

「あっシリパさんどこ行ってたんすか?」

「セキロウの弔いだよ。 すまなかったな。 絵ある?」  

ムラはどこからか絵を出してきた。

「すまないね。 これで酒と肴でも買ってみんなでセキロウのこと弔ってやってくれ。 
もともと三万円でこの絵買う約束してたから、これ使ってあいつの弔い頼む……」三万円を渡した。  

その足でシリパは誰もいない事務所にその絵を飾った。 

そこにメメとケンタが酒と肴を用意して入ってきた。 

メメが「シリパさん飲みませんか?」 

ケンタも軽く頷いた。  

絵を見ながらシリパはセキロウのことを話していた。

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