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「さっきの社長さん、あとひと押しって感じだったよな。手応えは十分あった……」
ふらりと入った大通り沿いに面したビルの三階にあるカフェ。明るい陽射しが降り注ぐ店内は、ランチタイムが終わっていることから比較的空いており、ゆったりとした時間が流れていた。
道路に面した窓際のテーブルに座り、大きなガラスを通して乱立するビルをぼんやりと眺める。
長時間の営業トークで渇いた喉をすぐにでも潤したいといわんばかりの勢いで、テーブルに運ばれてきたアイスコーヒーに手を伸ばした征矢克臣に、貴滉は苦笑いを浮かべていた。
克臣の慌てように戸惑っている女性店員に小さく頭を下げて自身がオーダーしたホットラテを受け取ると、手元に広げた新築ビルのテナント募集要項が書かれたパンフレットに視線を落とし、顎に手を掛けて考え深げに先程の商談の経過を反芻した。
「――どうかなぁ。あの社長、あんまりいい噂は聞かないんだよ。契約当日にドタキャンされたっていう話はまだいい方で、契約後に何かにつけてクレームをつけて賠償金を請求するっていうことも……」
「あくまでも噂だろ? せっかくツーフロアの大口契約取れるかどうかってところだぞ。お前ってホントに慎重っていうか……石橋を叩きすぎて割っちゃうタイプだよな」
克臣のグラスに注がれていたアイスコーヒーはすでに飲み干され氷だけになっていた。それに気づいた貴滉は小さくため息をつきながら、メニュー表を克臣に差し出した。
「他に何か頼むか?」
「おぉ、サンキュー」
大雑把で怖いもの知らずの克臣が、商談の後でアイスコーヒーを一気飲みするなんてことは珍しい。久しぶりの大口案件の商談は、彼にとっても緊張の連続だったといえる。
この案件を受注すれば今月のノルマは達成できるし、ここのところの不景気で売り上げも伸び悩んでいる営業部にも朗報となる。しかし、貴滉はノリ気ではなかった。
「――これ、焦って動かない方が良いかも」
ボソリと呟いた貴滉を覗き込んだ克臣は、ふーんと鼻を鳴らして笑った。
「出た出た! 貴滉の勘……。ま、それで何回も助けられた俺としては、お前の言い分を聞かないで突っ走るほど融通の利かない相棒じゃないけどな」
「克臣……」
「――それ、冷めるぞ。早く飲めよ」
クイッと顎をしゃくった克臣は、テーブルの脇を通りかかった店員を呼び止めると「アメリカン一つ。ホットで」とオーダーした。
貴滉はホッと肩から力を抜くと、愛らしいベアのラテアートが施されたホットラテのカップを両手で包み込んでそっと口をつけた。
不動産売買や管理などを扱う株式会社ハザマ・エステート。会社の要ともいえる営業部開発二課に所属する貴滉と克臣は入社当時からウマがあった同期であり、今は共に靴の底をすり減らして取引先を回る相棒だ。
長身でがっしりとした体躯の克臣は大学時代バスケットボールをやっていたようで、健康的な肌色とツーブロックの黒髪が、もとより整っている彼の相貌をより引き立てている。
そんな彼とは対照的に身長も標準的で色が白く、細身で女性的な顔つきである貴滉。
自分から積極的に動くことのなかった貴滉を何度も食事に誘い、営業マンとして顧客と対等に向き合えるようにしてくれたのは克臣のお陰だといっても過言ではない。プライベートでも時々一緒に出掛けることもあり、公私ともに気の置けない相手だ。
「――この件は部長と相談するってことで。目先の利益に飛びついて、あとで泣きを見るのは俺たちだからな」
「いつも、ごめん……」
カップを手にしたまま上目づかいで謝った貴滉を見た克臣はクシャリと顔を崩して笑った。
「なに、謝ってんだよ。いつものことだろ? それに……お前の勘って外れたことないし。何でもかんでもがむしゃらに突っ走る単細胞の俺にはなくてはならない相棒だよ」
「そんなことない。お前がいるから……その、俺も頑張れるっていうか」
長い睫毛に縁取られた栗色の瞳を恥ずかしげに逸らした貴滉は、ソーサーにカップを戻すと広げていた資料を手持無沙汰にまとめた。
その様子を見ていた克臣が、二度目のオーダーで運ばれてきたコーヒーを啜りながら、不意に表情を曇らせて咎めるようにすっと目を細めた。
「――お前さ。そういうの……俺以外の奴の前で気軽に口にするなよ」
「え?」
「誘ってる……って思われるぞ」
「そんなつもりはっ」
「発情しなくてもΩなんだから……。そのへんは自覚した方がいいぞ。昔みたいに見下すような奴らは減ったとはいえ、Ω性を否定するヤツがまったくいないわけじゃない。下手をすれば、その場にいることでさえも不快に思う奴もいる」
この世界には、男女の性別の他に第二の性と呼ばれるα、β、Ωという性が存在する。
人口が少なく生まれつき頭脳や身体能力に優れたα性は狼の血統を濃く引継いでいると言われている。その才能は政界だけでなく経済・社会を動かすことに如何なく発揮され高い地位を確立している者が多いのが特徴だ。
β性はごくごく一般的で特別優れているというものはないが、世界で最も人口が多い。
そして、周期的に発情期を迎え、男性でも子を成すことが出来るΩ性。
本能のままに体を重ね、相手にうなじを噛まれることで番う。理想的な血を残すためにはα同士の結婚が最適とされているが、稀にΩの発情期に誘われたαが体を繋げてしまう事がある。こういった強引なセックスにより望むことなく番にされ子を宿す者もいる。その被害者の多くはΩ性で、支援ボランティアが設置している相談窓口には毎日問い合わせがあとを絶たないという。
もともと社会的地位が低く、周期的に訪れる『発情期』によって引き起こされる見境ない欲情が低俗だとみなされていたΩ性。自ら強力なフェロモンを撒き散らしα性やβ性を誘惑してセックスを強要する『悪』と言われ、その果てに妊娠したと訴えても自業自得だという風潮があった。だが今は社会的地位も確立され、多くの企業でもΩ性を受け入れる体制が出来ている。
しかし、すべてのΩ性が救われているわけではない。そういった者たちから目を逸らし、さもすべてがうまく収まっているように錯覚させているのは、政府がΩに対して希少種保護支援や助成金という政策を前面に打ち出すことで国民ファーストだと思い込ませたからだ。
いまや都市伝説となりつつある『運命の番』も、もとは政府がすべてを美談とするために拡げたキラーワードなどではないかと、まことしやかに囁かれている。
Ω性は自身の発情をコントロールするために抑制剤の服用が義務付けられているが、α性やβ性もΩ性の発情に巻き込まれないための自衛策としてフェロモンブロック薬を使用する者が多い。それは、Ω性と日常的に接することの多い企業や店舗、施設などでの活動を円滑にするためには欠かせない
克臣はβであるが、営業マンという職業柄常にブロック薬を服用している。しかし、それは相棒である貴滉の為でもあった。
「まだ……そう思う人いるんだね」
「そりゃあいるだろうよ。希少種だからって国から支援してもらえるし、優遇措置もある。それを妬まない奴はいないと思う……。まぁ、そういうことを騒ぐ奴ってβ性がほとんどなんだけどな」
まるで世界中のβ性代表であるかのように申し訳なさそうに首をすくめた克臣に、貴滉は小さく笑って見せた。
「お前が気にすることないだろ。変なヤツ……」
「なんだよ、それ……。お前のこと心配してやってるのに」
「ありがとう。でも、俺はΩ性であってΩ性じゃない。二十六にもなってまだ発情しないとか……出来損ないって言われても仕方がないよな」
出生してから性別が変化する者も稀にいるが、貴滉はΩ性として生まれ今に至っている。
Ω性は思春期――早い者では十代前半に初めての発情期を迎える。それからは、個人差はあるものの大体三ヶ月に一度の周期で発情期が訪れ、それが一週間ほど続く。その間は自我を失うほど欲情し、自身にとって有益だと思われる相手の子種を欲する獣と化す。発情中は抑制剤も効かないが、突然の発情を一時的に抑えるために薬を服用することがある。これは、望まない妊娠や番うことを防ぐためには必要なことであり、うなじを噛まれないようにネックガードを着用する者もいる。
Ω性に生まれた者はこういった症状と生涯付き合っていかなければならない。
しかし、貴滉はそういった苦労を経験したことがなかった。
思春期を迎えても発情期は訪れなかった。個人差はあるという医師の見解だったが、いつまでたってもその予兆すら見受けられなかった。それでも、もしもの時の事を考えて抑制剤だけはいつも持ち歩いている。
そんな貴滉に対し両親は辛辣な言葉を投げかけた。
「出来損ないのΩ」――と。
この歳になってもセックスが嫌いで、恋もしたことがない。
大人であって大人になり切れていない自分がもどかしくもあり、悔しくもあった。
そっと唇を噛んだ貴滉に気付いた克臣は、慰めるように柔らかい声音で言った。
「心配するなって……。出来損ないって言われてるヤツが、大口の契約いくつも取って来られるわけないだろ? お前はそんなんじゃないから」
一番近くにいて、信頼出来る唯一の存在――それが克臣だった。
貴滉のことを理解し、いつでも欲しい言葉を返してくれる。それはぶっきら棒な言い方ではあるが、じつに彼らしく愛嬌のあるものだった。
「克臣にはいつも慰められてばっかりだな。もっと強くならなきゃ……」
「その通り! 言い方悪いけど、煩わしい発情期がない分、お前は自由気ままにやっていられるんだ。もっと楽しむことを覚えろ。何かやりたいこととかあるだろ?」
克臣の問いかけに、ゆっくりと視線を窓の外に移した貴滉は向かいのビルの屋上に掲げられた看板を見つめ、ボソリと呟いた。
「そうだね……。う~ん、例えば……恋とかしたいな」
「は?」
予想もしなかった貴滉の答えに素っ頓狂な声をあげた克臣だったが、彼の視線を追って窓の外を見上げると「あぁ……」と納得したように笑った。
『最初で最後の恋をしたい』
多くのビルが立ち並ぶ通り沿いでは、上に視線が向かないためなかなか目につかない看板。でも、こうやって少し目線を変えるだけで見えてくるものがある。
それは初めて目にするものがほとんどで、貴滉にとっては新たな発見だった。
「――あれ、今流行の恋活イベントの広告だろ? The Oneって企画会社が売り出してるヤツ。LGBTや訳アリな性対象者をターゲットにした恋活・婚活イベンターで、結構大々的にCMしてる。最近、駅貼りのポスターも増えたな」
「え? そうなの?」
「お前、そういうところ疎いよな? ほら、この前……大手IT企業のクールウェブゲートがスポンサーになったとかって話題になってただろ?」
「へぇ……そうなんだ」
そう言えば少し前に、スマートフォンに定期的に配信されてくるウェブニュースの見出しを見かけたことを思い出した貴滉は、窓ガラスに張りつくように顔を寄せてビルの屋上を見上げた。
「――なんだか面白そうだな。ちょっと調べてみようかな」
「マジかよ。やめとけ……。会費ガッツリとられて、参加者はサクラばかりのイベントだぞ」
「克臣、行ったことある?」
「ないよ! あのなぁ……今どきβ性だって本能で相手を見つける時代だぞ? そもそもゼロから段階を踏んでいく恋愛なんて流行らないし、面倒臭いだろ。何よりマッチングアプリとか使った方が楽だし……」
「アプリ使って、何してるの?」
ビルの屋上から視線を外し興味津々といった顔で克臣を見つめた貴滉は、わずかにテーブルに身を乗り出した。
「セフレとか……見つけてるんだろ?」
薄い口元を意地悪げに歪めた貴滉の視線から逃れるように、すっかり冷めたコーヒーを一気に喉に流し込んだ克臣は傍らに置かれていた伝票を掴むとおもむろに腰をあげた。
「そろそろ行くぞ! 夕方から会議だったよな? 資料に目ぇ通しておかないと部長に怒られるぞ」
「逃げる気?」
「うるさいっ! ったく――つまらない恋活イベントとか行くなよ。金と時間の無駄だ」
そう言いながら歩き出した彼を追うように立ち上がった貴滉は、もう一度窓の外に視線を向けた。
ロングヘアの女性が微笑む写真をバックに、ショッキングピンクのクレヨンで書きなぐったような独特の字体。そのたった一言が、なぜか貴滉の心を激しく揺さぶった。
恋をしたことがない彼にとって、そういったイベントが存在することすら知らなかった。恥ずかしい話ではあるが、この手のことに関しては何もかもが初体験であると言っても過言ではない。
今まで、これほどあの言葉に惹かれることがあっただろうか。過去を振り返ってみてもそんな記憶は残ってはいない。
「最初で最後の恋――か」
自分らしくない。そう思いながらも、恋について考えている自分に気づき気恥ずかしさを覚えて俯いた。
出来損ないのΩ性に恋が出来るのだろうか……。
不安ばかりではあるが、それよりも高揚感の方がはるかに勝っていた。
「――おい! 貴滉……行くぞっ」
レジの前で呼ぶ克臣の声に弾かれるように鞄を掴むと、貴滉は飲みかけのカフェラテを一気に流し込んで席を立った。
冷めて苦みが増したコーヒーの味を舌先に感じながら、貴滉は未知の世界に踏み込むべく力強い一歩を踏み出していた。
*****
オフィス街の一画に位置する株式会社ハザマ・エステートの自社ビルは各階に部署が配置されており、広々とした空間で仕事が出来るよう設計され什器類にも無駄がない。
貴滉たちが所属する営業部は三階にあり、細分化されたセクションがワンフロアに集約され連携がとりやすくなっている。その中の開発一課は賃貸・分譲マンションや個人住宅などをメインに扱い、二課は商業ビルのテナントや土地の売買・再利用の提案などを扱っていた。
フロアの端には休憩スペースが設けられ、その一角には小さくはあるが喫煙室もある。
数台の自動販売機とテーブルとイスが数脚置かれた休憩室には、タブレットをスクロールしながらコーヒーの入った紙コップを口元に運ぶ貴滉の姿があった。
数日前、外回りの最中に立ち寄ったカフェで見つけた恋活イベント企画会社の看板が頭から離れなかった。
その日以来、貴滉は暇を見つけてはThe Oneのことをリサーチした。六年前に出来た会社でそう古くはないが、企画するイベント実績がなかなか伸びず経営も伸び悩んでいたようだ。しかし、ここ二~三年で急成長を遂げている。その理由はLGBTへの社会的理解度が上がったこと。もう一つは、望んでも相手が見つからない訳あり性対象者の急増にあった。
貴滉のように生まれてから一度も発情期を迎えたことのない者はもちろんだが、目まぐるしい社会の変化によってストレスや後天的な理由で発情困難症を患い、婚期を逃す者が増えているようだ。その悩みはΩ性だけでなくα性やβ性も同様の事例がいくつも取りあげられていた。
男性Ω性の出産に関して年齢制限はない。たとえ高齢で妊娠したとしても健康体であれば何も問題はないと言われている。しかし、女性に関しては別だ。同じΩ性であっても男女では体の作りが根本的に違うため、疾患に弱く体力的にも早期出産を推奨する医師が多い。女性の社会進出が喜ばれる一方で、それによって出逢いのタイミングを逃し婚期が延びて出産に辿りつかない女性が増えている。
もちろん、それは女性に限ったことではない。社会的地位の高いα性であっても同じことが言えよう。
運命的に出逢い、その場で恋に落ちて体を重ねるという『運命の番』なんて、やはりこの現代には存在しないのではないかとさえ思えてくる。
各種族が皆優れた遺伝子を持ち、本能でその相手を探し出せるのであればThe Oneのようなイベント企画会社など必要ないのだ。
貴滉は数ヶ月先まで企画された恋活イベントの一覧ページを真剣に見つめていた。
結婚を前提とした恋人探しから、まずは友達から……という合コン感覚の気軽なものまである。開催される場所も居酒屋を貸し切ったり、イベントホール、ホテルなど多岐に渡っている。それぞれに参加資格が厳しく制限されており、参加費も異なっていた。
「――まだ結婚は考えていないしなぁ。あ、でも……恋人になって番えば結婚することになるのか」
いつになく真剣な表情でタブレットの画面を見つめていた貴滉は、すぐ後ろにある気配にまったく気付いていなかった。
「随分と熱心だな。何を探してるんだ?」
「うわっ!」
急に頭上から降ってきた克臣の低い声に驚き、倒しそうになった紙コップを慌てて手で掴んだ。そして、タブレットの画面をテーブルに押し付けるように裏返すと肩越しに苦笑いを浮かべた。
「克臣か……お疲れ様。驚かすなよ……」
「真っ昼間からエロサイトか?」
「違うよ!」
紙コップを持つ指先がまだ震えている。それほど驚きの余波は大きかった。
「ふ~ん。お前が休憩入るなりここに直行するのも珍しいし、仕事以外で真剣にタブレット見て検索してるのも……」
「べ、別にいいだろ。俺だっていろいろ調べたいことあるし……」
自動販売機の前に立ち商品を選びながら言った克臣に咄嗟に噛みついた貴滉だったが、ふと口を噤んで唇を軽く噛みしめた。
(気づかれている……)
チラッと訝るように視線を向けた貴滉に気付いたのか、商品取り出し口に手を入れて身を屈めた克臣がボソリと呟いた。
「――この前のヤツ、調べてるのか? 恋活イベント……」
貴滉の顔を見ることなく缶コーヒーを開けて口に運んだ克臣。その姿を見つめてからわずかに俯いた。
彼に対して後ろめたいことなど何一つしていない。それに、慌てて隠す必要もない。
それなのに……自分がした行動は克臣に怪しがられてもおかしくないものだった。
「そう……だよ。俺……真剣だから」
裏返したタブレットの画面を軽くタップしてThe Oneのホームページを表示させると、諦めたように克臣に見せた。しかし彼はまるで興味がないというように鼻で笑うと、コーヒーを喉に流し込んでから言った。
「やめとけ……。真剣だったら尚更だ」
「どうして?」
貴滉の問いかけに克臣の返事はなかった。彼はそのまま何も言うことなく休憩室を出て行ってしまった。
心なしかイラついているようにも思えた克臣の口調が気にかかったが、何ともいえない微妙な空気が払拭されたような気がして、貴滉は肩の力を抜きながら大きく息を吐いた。
克臣とは仲のいい信頼のおける同期というだけで、それ以上の感情はない。まして、彼を恋愛対象として見たことなど一度もない。それなのに彼の様子はまるで――。
「俺の思い過ごしか……」
腕時計に目をやり、タブレットの電源を落とす。
スッキリしない気持ちを抱えながら椅子から立ち上がると、貴滉は休憩室をあとにした。
ふらりと入った大通り沿いに面したビルの三階にあるカフェ。明るい陽射しが降り注ぐ店内は、ランチタイムが終わっていることから比較的空いており、ゆったりとした時間が流れていた。
道路に面した窓際のテーブルに座り、大きなガラスを通して乱立するビルをぼんやりと眺める。
長時間の営業トークで渇いた喉をすぐにでも潤したいといわんばかりの勢いで、テーブルに運ばれてきたアイスコーヒーに手を伸ばした征矢克臣に、貴滉は苦笑いを浮かべていた。
克臣の慌てように戸惑っている女性店員に小さく頭を下げて自身がオーダーしたホットラテを受け取ると、手元に広げた新築ビルのテナント募集要項が書かれたパンフレットに視線を落とし、顎に手を掛けて考え深げに先程の商談の経過を反芻した。
「――どうかなぁ。あの社長、あんまりいい噂は聞かないんだよ。契約当日にドタキャンされたっていう話はまだいい方で、契約後に何かにつけてクレームをつけて賠償金を請求するっていうことも……」
「あくまでも噂だろ? せっかくツーフロアの大口契約取れるかどうかってところだぞ。お前ってホントに慎重っていうか……石橋を叩きすぎて割っちゃうタイプだよな」
克臣のグラスに注がれていたアイスコーヒーはすでに飲み干され氷だけになっていた。それに気づいた貴滉は小さくため息をつきながら、メニュー表を克臣に差し出した。
「他に何か頼むか?」
「おぉ、サンキュー」
大雑把で怖いもの知らずの克臣が、商談の後でアイスコーヒーを一気飲みするなんてことは珍しい。久しぶりの大口案件の商談は、彼にとっても緊張の連続だったといえる。
この案件を受注すれば今月のノルマは達成できるし、ここのところの不景気で売り上げも伸び悩んでいる営業部にも朗報となる。しかし、貴滉はノリ気ではなかった。
「――これ、焦って動かない方が良いかも」
ボソリと呟いた貴滉を覗き込んだ克臣は、ふーんと鼻を鳴らして笑った。
「出た出た! 貴滉の勘……。ま、それで何回も助けられた俺としては、お前の言い分を聞かないで突っ走るほど融通の利かない相棒じゃないけどな」
「克臣……」
「――それ、冷めるぞ。早く飲めよ」
クイッと顎をしゃくった克臣は、テーブルの脇を通りかかった店員を呼び止めると「アメリカン一つ。ホットで」とオーダーした。
貴滉はホッと肩から力を抜くと、愛らしいベアのラテアートが施されたホットラテのカップを両手で包み込んでそっと口をつけた。
不動産売買や管理などを扱う株式会社ハザマ・エステート。会社の要ともいえる営業部開発二課に所属する貴滉と克臣は入社当時からウマがあった同期であり、今は共に靴の底をすり減らして取引先を回る相棒だ。
長身でがっしりとした体躯の克臣は大学時代バスケットボールをやっていたようで、健康的な肌色とツーブロックの黒髪が、もとより整っている彼の相貌をより引き立てている。
そんな彼とは対照的に身長も標準的で色が白く、細身で女性的な顔つきである貴滉。
自分から積極的に動くことのなかった貴滉を何度も食事に誘い、営業マンとして顧客と対等に向き合えるようにしてくれたのは克臣のお陰だといっても過言ではない。プライベートでも時々一緒に出掛けることもあり、公私ともに気の置けない相手だ。
「――この件は部長と相談するってことで。目先の利益に飛びついて、あとで泣きを見るのは俺たちだからな」
「いつも、ごめん……」
カップを手にしたまま上目づかいで謝った貴滉を見た克臣はクシャリと顔を崩して笑った。
「なに、謝ってんだよ。いつものことだろ? それに……お前の勘って外れたことないし。何でもかんでもがむしゃらに突っ走る単細胞の俺にはなくてはならない相棒だよ」
「そんなことない。お前がいるから……その、俺も頑張れるっていうか」
長い睫毛に縁取られた栗色の瞳を恥ずかしげに逸らした貴滉は、ソーサーにカップを戻すと広げていた資料を手持無沙汰にまとめた。
その様子を見ていた克臣が、二度目のオーダーで運ばれてきたコーヒーを啜りながら、不意に表情を曇らせて咎めるようにすっと目を細めた。
「――お前さ。そういうの……俺以外の奴の前で気軽に口にするなよ」
「え?」
「誘ってる……って思われるぞ」
「そんなつもりはっ」
「発情しなくてもΩなんだから……。そのへんは自覚した方がいいぞ。昔みたいに見下すような奴らは減ったとはいえ、Ω性を否定するヤツがまったくいないわけじゃない。下手をすれば、その場にいることでさえも不快に思う奴もいる」
この世界には、男女の性別の他に第二の性と呼ばれるα、β、Ωという性が存在する。
人口が少なく生まれつき頭脳や身体能力に優れたα性は狼の血統を濃く引継いでいると言われている。その才能は政界だけでなく経済・社会を動かすことに如何なく発揮され高い地位を確立している者が多いのが特徴だ。
β性はごくごく一般的で特別優れているというものはないが、世界で最も人口が多い。
そして、周期的に発情期を迎え、男性でも子を成すことが出来るΩ性。
本能のままに体を重ね、相手にうなじを噛まれることで番う。理想的な血を残すためにはα同士の結婚が最適とされているが、稀にΩの発情期に誘われたαが体を繋げてしまう事がある。こういった強引なセックスにより望むことなく番にされ子を宿す者もいる。その被害者の多くはΩ性で、支援ボランティアが設置している相談窓口には毎日問い合わせがあとを絶たないという。
もともと社会的地位が低く、周期的に訪れる『発情期』によって引き起こされる見境ない欲情が低俗だとみなされていたΩ性。自ら強力なフェロモンを撒き散らしα性やβ性を誘惑してセックスを強要する『悪』と言われ、その果てに妊娠したと訴えても自業自得だという風潮があった。だが今は社会的地位も確立され、多くの企業でもΩ性を受け入れる体制が出来ている。
しかし、すべてのΩ性が救われているわけではない。そういった者たちから目を逸らし、さもすべてがうまく収まっているように錯覚させているのは、政府がΩに対して希少種保護支援や助成金という政策を前面に打ち出すことで国民ファーストだと思い込ませたからだ。
いまや都市伝説となりつつある『運命の番』も、もとは政府がすべてを美談とするために拡げたキラーワードなどではないかと、まことしやかに囁かれている。
Ω性は自身の発情をコントロールするために抑制剤の服用が義務付けられているが、α性やβ性もΩ性の発情に巻き込まれないための自衛策としてフェロモンブロック薬を使用する者が多い。それは、Ω性と日常的に接することの多い企業や店舗、施設などでの活動を円滑にするためには欠かせない
克臣はβであるが、営業マンという職業柄常にブロック薬を服用している。しかし、それは相棒である貴滉の為でもあった。
「まだ……そう思う人いるんだね」
「そりゃあいるだろうよ。希少種だからって国から支援してもらえるし、優遇措置もある。それを妬まない奴はいないと思う……。まぁ、そういうことを騒ぐ奴ってβ性がほとんどなんだけどな」
まるで世界中のβ性代表であるかのように申し訳なさそうに首をすくめた克臣に、貴滉は小さく笑って見せた。
「お前が気にすることないだろ。変なヤツ……」
「なんだよ、それ……。お前のこと心配してやってるのに」
「ありがとう。でも、俺はΩ性であってΩ性じゃない。二十六にもなってまだ発情しないとか……出来損ないって言われても仕方がないよな」
出生してから性別が変化する者も稀にいるが、貴滉はΩ性として生まれ今に至っている。
Ω性は思春期――早い者では十代前半に初めての発情期を迎える。それからは、個人差はあるものの大体三ヶ月に一度の周期で発情期が訪れ、それが一週間ほど続く。その間は自我を失うほど欲情し、自身にとって有益だと思われる相手の子種を欲する獣と化す。発情中は抑制剤も効かないが、突然の発情を一時的に抑えるために薬を服用することがある。これは、望まない妊娠や番うことを防ぐためには必要なことであり、うなじを噛まれないようにネックガードを着用する者もいる。
Ω性に生まれた者はこういった症状と生涯付き合っていかなければならない。
しかし、貴滉はそういった苦労を経験したことがなかった。
思春期を迎えても発情期は訪れなかった。個人差はあるという医師の見解だったが、いつまでたってもその予兆すら見受けられなかった。それでも、もしもの時の事を考えて抑制剤だけはいつも持ち歩いている。
そんな貴滉に対し両親は辛辣な言葉を投げかけた。
「出来損ないのΩ」――と。
この歳になってもセックスが嫌いで、恋もしたことがない。
大人であって大人になり切れていない自分がもどかしくもあり、悔しくもあった。
そっと唇を噛んだ貴滉に気付いた克臣は、慰めるように柔らかい声音で言った。
「心配するなって……。出来損ないって言われてるヤツが、大口の契約いくつも取って来られるわけないだろ? お前はそんなんじゃないから」
一番近くにいて、信頼出来る唯一の存在――それが克臣だった。
貴滉のことを理解し、いつでも欲しい言葉を返してくれる。それはぶっきら棒な言い方ではあるが、じつに彼らしく愛嬌のあるものだった。
「克臣にはいつも慰められてばっかりだな。もっと強くならなきゃ……」
「その通り! 言い方悪いけど、煩わしい発情期がない分、お前は自由気ままにやっていられるんだ。もっと楽しむことを覚えろ。何かやりたいこととかあるだろ?」
克臣の問いかけに、ゆっくりと視線を窓の外に移した貴滉は向かいのビルの屋上に掲げられた看板を見つめ、ボソリと呟いた。
「そうだね……。う~ん、例えば……恋とかしたいな」
「は?」
予想もしなかった貴滉の答えに素っ頓狂な声をあげた克臣だったが、彼の視線を追って窓の外を見上げると「あぁ……」と納得したように笑った。
『最初で最後の恋をしたい』
多くのビルが立ち並ぶ通り沿いでは、上に視線が向かないためなかなか目につかない看板。でも、こうやって少し目線を変えるだけで見えてくるものがある。
それは初めて目にするものがほとんどで、貴滉にとっては新たな発見だった。
「――あれ、今流行の恋活イベントの広告だろ? The Oneって企画会社が売り出してるヤツ。LGBTや訳アリな性対象者をターゲットにした恋活・婚活イベンターで、結構大々的にCMしてる。最近、駅貼りのポスターも増えたな」
「え? そうなの?」
「お前、そういうところ疎いよな? ほら、この前……大手IT企業のクールウェブゲートがスポンサーになったとかって話題になってただろ?」
「へぇ……そうなんだ」
そう言えば少し前に、スマートフォンに定期的に配信されてくるウェブニュースの見出しを見かけたことを思い出した貴滉は、窓ガラスに張りつくように顔を寄せてビルの屋上を見上げた。
「――なんだか面白そうだな。ちょっと調べてみようかな」
「マジかよ。やめとけ……。会費ガッツリとられて、参加者はサクラばかりのイベントだぞ」
「克臣、行ったことある?」
「ないよ! あのなぁ……今どきβ性だって本能で相手を見つける時代だぞ? そもそもゼロから段階を踏んでいく恋愛なんて流行らないし、面倒臭いだろ。何よりマッチングアプリとか使った方が楽だし……」
「アプリ使って、何してるの?」
ビルの屋上から視線を外し興味津々といった顔で克臣を見つめた貴滉は、わずかにテーブルに身を乗り出した。
「セフレとか……見つけてるんだろ?」
薄い口元を意地悪げに歪めた貴滉の視線から逃れるように、すっかり冷めたコーヒーを一気に喉に流し込んだ克臣は傍らに置かれていた伝票を掴むとおもむろに腰をあげた。
「そろそろ行くぞ! 夕方から会議だったよな? 資料に目ぇ通しておかないと部長に怒られるぞ」
「逃げる気?」
「うるさいっ! ったく――つまらない恋活イベントとか行くなよ。金と時間の無駄だ」
そう言いながら歩き出した彼を追うように立ち上がった貴滉は、もう一度窓の外に視線を向けた。
ロングヘアの女性が微笑む写真をバックに、ショッキングピンクのクレヨンで書きなぐったような独特の字体。そのたった一言が、なぜか貴滉の心を激しく揺さぶった。
恋をしたことがない彼にとって、そういったイベントが存在することすら知らなかった。恥ずかしい話ではあるが、この手のことに関しては何もかもが初体験であると言っても過言ではない。
今まで、これほどあの言葉に惹かれることがあっただろうか。過去を振り返ってみてもそんな記憶は残ってはいない。
「最初で最後の恋――か」
自分らしくない。そう思いながらも、恋について考えている自分に気づき気恥ずかしさを覚えて俯いた。
出来損ないのΩ性に恋が出来るのだろうか……。
不安ばかりではあるが、それよりも高揚感の方がはるかに勝っていた。
「――おい! 貴滉……行くぞっ」
レジの前で呼ぶ克臣の声に弾かれるように鞄を掴むと、貴滉は飲みかけのカフェラテを一気に流し込んで席を立った。
冷めて苦みが増したコーヒーの味を舌先に感じながら、貴滉は未知の世界に踏み込むべく力強い一歩を踏み出していた。
*****
オフィス街の一画に位置する株式会社ハザマ・エステートの自社ビルは各階に部署が配置されており、広々とした空間で仕事が出来るよう設計され什器類にも無駄がない。
貴滉たちが所属する営業部は三階にあり、細分化されたセクションがワンフロアに集約され連携がとりやすくなっている。その中の開発一課は賃貸・分譲マンションや個人住宅などをメインに扱い、二課は商業ビルのテナントや土地の売買・再利用の提案などを扱っていた。
フロアの端には休憩スペースが設けられ、その一角には小さくはあるが喫煙室もある。
数台の自動販売機とテーブルとイスが数脚置かれた休憩室には、タブレットをスクロールしながらコーヒーの入った紙コップを口元に運ぶ貴滉の姿があった。
数日前、外回りの最中に立ち寄ったカフェで見つけた恋活イベント企画会社の看板が頭から離れなかった。
その日以来、貴滉は暇を見つけてはThe Oneのことをリサーチした。六年前に出来た会社でそう古くはないが、企画するイベント実績がなかなか伸びず経営も伸び悩んでいたようだ。しかし、ここ二~三年で急成長を遂げている。その理由はLGBTへの社会的理解度が上がったこと。もう一つは、望んでも相手が見つからない訳あり性対象者の急増にあった。
貴滉のように生まれてから一度も発情期を迎えたことのない者はもちろんだが、目まぐるしい社会の変化によってストレスや後天的な理由で発情困難症を患い、婚期を逃す者が増えているようだ。その悩みはΩ性だけでなくα性やβ性も同様の事例がいくつも取りあげられていた。
男性Ω性の出産に関して年齢制限はない。たとえ高齢で妊娠したとしても健康体であれば何も問題はないと言われている。しかし、女性に関しては別だ。同じΩ性であっても男女では体の作りが根本的に違うため、疾患に弱く体力的にも早期出産を推奨する医師が多い。女性の社会進出が喜ばれる一方で、それによって出逢いのタイミングを逃し婚期が延びて出産に辿りつかない女性が増えている。
もちろん、それは女性に限ったことではない。社会的地位の高いα性であっても同じことが言えよう。
運命的に出逢い、その場で恋に落ちて体を重ねるという『運命の番』なんて、やはりこの現代には存在しないのではないかとさえ思えてくる。
各種族が皆優れた遺伝子を持ち、本能でその相手を探し出せるのであればThe Oneのようなイベント企画会社など必要ないのだ。
貴滉は数ヶ月先まで企画された恋活イベントの一覧ページを真剣に見つめていた。
結婚を前提とした恋人探しから、まずは友達から……という合コン感覚の気軽なものまである。開催される場所も居酒屋を貸し切ったり、イベントホール、ホテルなど多岐に渡っている。それぞれに参加資格が厳しく制限されており、参加費も異なっていた。
「――まだ結婚は考えていないしなぁ。あ、でも……恋人になって番えば結婚することになるのか」
いつになく真剣な表情でタブレットの画面を見つめていた貴滉は、すぐ後ろにある気配にまったく気付いていなかった。
「随分と熱心だな。何を探してるんだ?」
「うわっ!」
急に頭上から降ってきた克臣の低い声に驚き、倒しそうになった紙コップを慌てて手で掴んだ。そして、タブレットの画面をテーブルに押し付けるように裏返すと肩越しに苦笑いを浮かべた。
「克臣か……お疲れ様。驚かすなよ……」
「真っ昼間からエロサイトか?」
「違うよ!」
紙コップを持つ指先がまだ震えている。それほど驚きの余波は大きかった。
「ふ~ん。お前が休憩入るなりここに直行するのも珍しいし、仕事以外で真剣にタブレット見て検索してるのも……」
「べ、別にいいだろ。俺だっていろいろ調べたいことあるし……」
自動販売機の前に立ち商品を選びながら言った克臣に咄嗟に噛みついた貴滉だったが、ふと口を噤んで唇を軽く噛みしめた。
(気づかれている……)
チラッと訝るように視線を向けた貴滉に気付いたのか、商品取り出し口に手を入れて身を屈めた克臣がボソリと呟いた。
「――この前のヤツ、調べてるのか? 恋活イベント……」
貴滉の顔を見ることなく缶コーヒーを開けて口に運んだ克臣。その姿を見つめてからわずかに俯いた。
彼に対して後ろめたいことなど何一つしていない。それに、慌てて隠す必要もない。
それなのに……自分がした行動は克臣に怪しがられてもおかしくないものだった。
「そう……だよ。俺……真剣だから」
裏返したタブレットの画面を軽くタップしてThe Oneのホームページを表示させると、諦めたように克臣に見せた。しかし彼はまるで興味がないというように鼻で笑うと、コーヒーを喉に流し込んでから言った。
「やめとけ……。真剣だったら尚更だ」
「どうして?」
貴滉の問いかけに克臣の返事はなかった。彼はそのまま何も言うことなく休憩室を出て行ってしまった。
心なしかイラついているようにも思えた克臣の口調が気にかかったが、何ともいえない微妙な空気が払拭されたような気がして、貴滉は肩の力を抜きながら大きく息を吐いた。
克臣とは仲のいい信頼のおける同期というだけで、それ以上の感情はない。まして、彼を恋愛対象として見たことなど一度もない。それなのに彼の様子はまるで――。
「俺の思い過ごしか……」
腕時計に目をやり、タブレットの電源を落とす。
スッキリしない気持ちを抱えながら椅子から立ち上がると、貴滉は休憩室をあとにした。
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