つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

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来客

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 お互いのことを少しずつ話して、より仲が親密になったように思えた。
 けれど翌日、フェイは体調を崩してしまった。

「今日は家でじっとしていなさい。私は出てくるけれど、すぐ戻るから」
「はい……申し訳ございません」
「謝るな。急に環境が変わって身体が追いつかないのだろう」

 どうにも人は弱くていけないな、とルイは思う。フェイが外に慣れていなくて身体が弱いというのもありそうだが、ともかくフェイが心配だ。
 ルイは大急ぎで山を越えて飛んでいく。



 その頃、裏山の山道ではこっそりと王宮を抜け出したジンユェがひとり歩いていた。

「ここに、こんな道があったのか」

 父王にはあれ以上話を聞くことはできなかった。そのすぐ後に暇を与えられた。

「勝手な解釈かもしれないが、もう俺には父様がこうしろと言っているようにしか思えん」

 兄様に会いに行く。ジンユェはそう決めた。性格上、直接無事を確かめないと、どうしたって納得ができないに決まっているのだから、こうするしかなかったのだ。
 迷う覚悟をしていたが、迷うほど他に道がない。少しだけ険しいけれど、兄様が通った道だ。兄様は何を思いながらここを歩いただろう。ジンユェはフェイのことを思いながら一歩一歩、ふたりの暮らす龍の屋敷へと進んでいた。



「……ルイ……?」
「おやフェイ、目が覚めたかい」
「……はい、お帰りになられていたんですね。気がつかず申し訳ありません」
「いいんだよ、とてもよく眠っていたから。私も忍び足だったんだ」

 フェイはすん、とにおいを嗅いだ。

「……なんだか、いいにおいがします」
「腹が減っているかい? もう少し待っていなさい。食事を用意しているから」
「ルイが作ったのですか?」
「ああ。けれど作り方は他の龍や人の暮らしに詳しい者に聞いた。それにその通りに作れているかはわからない。味に期待はするのでないよ」
「ええ。でも、とてもいい香りですよ」
「香りはな」

 しばらく待つと鍋の中身がくつくつと音を立てて、具材が煮えたようだった。ルイはそれをお椀によそって寝室まで運び、少しふうふうと冷ましてからフェイに食べさせようと匙を差し出した。

「じ、自分で食べられます」
「いいから、食べなさい。見るからに手に力が入っていないのに、あたたかいものを持たせられないよ」
「……はい……。ぁ、ん……」
「……どうだい? 口に合えばいいのだが」
「ん、とっても美味しい。初めて食べるお味ですが、美味しいですよ」
「よかった。食事が美味しく食べられるのなら、少し安心だね」
「もしかして、この食材をとってきてくださったのですか?」
「そうだ。暫く持つくらいの分を貰ってきたから、遠慮せずにたくさん食べなさい。ほら、あーん」
「ありがとうございます。……ぁむ……うん、美味しい。木の実と豆がたくさんで、香ばしいお粥なんですね」
「ああ、元気がないときにはこういうものがいいと。木の実は私も好物だ」
「食べやすいですけど、噛み応えもあって元気が出ます」
「うん。食べて元気になっておくれ。フェイがつらいと、私もつらい」
「は、はい。そうですね」

 ルイは出会ったばかりのときよりも明確に、フェイに対して優しく甘く、見つめる瞳の温度が変わったように思う。心を開いてくれているのだと思えば喜ばしいけれど、もしかして本当の夫婦のように愛されているのかもしれないと思ってしまい、フェイはどぎまぎとした。



「…………?」
「? どうかしましたか?」
「……誰か居る」
「……? 誰か……?」

 ふたりがゆったりと食事をとっていると、ふいにルイが注意深くあたりを見回す。外から確かに、何か生き物が動く音がする。

「……本当ですね。もう遅いのに……人でしょうか……?」
「わからないが、人の足音のようだ。フェイはここに居なさい。私が様子を見てくるよ」
「お気をつけて」
「大丈夫。この山に私より強いものなどいないよ」

 あまりに心強いし、それもそうかと思わせる言葉だった。

 そう時間を待たずに、ルイは屋敷に戻ってくる。

「フェイ、お客さんだよ。辺りをうろついていたが害意はなさそうだし、フェイに会いたいと言うので連れてきた」
「……ジンユェ!」
「兄様!兄様……!無事だったんだ」

 ジンユェが一日かけて漸く屋敷を探したどり着いたのだった。兄の無事を知ったジンユェは少し泣きそうになりながら、勢いよくフェイのもとに駆け寄った。

「兄様、兄様。生きていてよかった……」
「心配をかけてすまないね。特にジンには何も言わずに出てきてしまったから……」
「それはもういいんだ。兄様の気持ちもわかるから。俺が同じ立場なら俺もそうしたよ。……ところでどうしたんです?何か病でも?」

 ジンユェはフェイの体調が悪そうに布団から上半身を起こしているだけの様子を見て訝しんだ。まさかこの龍の男が何かしたのかとでも思っていそうな顔だった。

「こらジン。ルイを睨むのはおやめ。ルイは体調を崩した私を看病してくれていたんだよ」
「……そうなのか?」
「うん。ほら、この粥もルイがわざわざ材料を集めて作ってくれたのだから。ルイは恐ろしくない、よい龍神だよ」

「……フェイ、その子が話していた弟かい?」
「はい、弟のジンユェです」
「そうだと思った。双子だと聞いていたが、弟のほうはユンロンに似ているな」
「……ユンロン? 父様を知っているのですか」
「知っているも何も、古くからの友人だよ。まあもう三十年近く会っていないが…………うん、友人だ」

 ルイがそう言い淀む理由を、フェイはなんとなく察してしまっている。元好きな人であり、友人。会っていなくとも、どこか強い縁で結ばれている、ルイとユンロン。
 その複雑そうな心境をわずかに表情に浮かべられると、フェイはどこか胸が苦しくなるのだった。
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