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本編

38.旅行計画

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 週末、既に恒例となった互いの部屋を行き来しての夕飯を終えた。今日の二人は蓜島の部屋に居る。二人ソファに並び食後のコーヒーを飲んでいるとき、東は蓜島に旅行の話を持ちかけてみた。
「いいですね、ちょうど有給消化を上から言われてたところなので、東さんの都合の良いタイミングで取れると思います」
「流石、名ばかりでない働き方改革は違いますね……」
「頑張った甲斐がありました」
 そう話す蓜島はほんのりと嬉しそうだ。蓜島のパッと見てわかるほどの嬉しさなのだから、相当嬉しいのだろうというのがわかる。一緒に居られるのが嬉しいと、そう思ってくれている。東はそのことに思わず顔がにやけてしまう。

「招待券使うとそれで行けるところになっちゃいますけど、調べてみたら結構良さげなところいっぱいあったんですよ。ほら、こことか」
「はい」
 東が事前に調べてみたホテルや旅館のサイトを開いたスマホを傾けると、蓜島は当然のように東のほうへ身を寄せ画面を覗き込む。いつもくっついたりはしているのに、和山にあんな話をされてからなので、その近さに東はどぎまぎとした。自分のこめかみに蓜島のおでこが軽くこつんとぶつかる。触れ合った髪にすら体温が伝わりそうで、東は急に恥ずかしくなった。
 それでもなんでもないふりをして、ほんの少し赤く染まった顔を見られないように蓜島の視線をスマホの画面に誘導する。
「旅館、素敵ですね。あまり経験がないので」
「おれも小さい頃地元のに行ったことがあるくらいで、あんまり覚えてないので初めてみたいなもんです。じゃあ、旅館にしましょうか」
 少しいつもよりもどきどきした気持ちのまま、旅行の計画が進んでいくことにもわくわくしてくる。

 それから東は和山と相談して店の臨時休業日を決めて、蓜島もそこに合わせて有給を取った。こうして、二人の初めての温泉旅行が決まったのだった。
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