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本編
34.素直になるということ
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しばらくして、取材を受けた記事が全国版の有名雑誌に掲載された。
「こう見ると、お前も非の打ち所のない美人に見えるんだけどな」
雑誌をぱらぱらとめくりながら和山がそう呟く。スイーツ特集のそれはもちろんパティシエの写真よりもケーキの写真のほうが多く載ってはいるが、東の写真は他の店舗のパティシエたちよりも少し多めに大きく載せられている。それも納得がいくくらいに、写真の出来がいい。インタビューの内容も、きちんと良いところを見せたうえでうまく編集してくれているので、東自身が見てもめちゃくちゃ出来る男みたいだな、なんて思った。
「おれめっちゃ仕事できそう~。まあ仕事しかできないんだけど」
「また卑屈になってるなあ」
「……卑屈っていうか、そういうわけじゃないけど」
東は落ち込んでいるというわけではなさそうだったが、和山の目にはやはり元気がなく見えていた。長い付き合いの和山でなければ見逃してしまうような些細な変化だが、和山の前では本心を隠さない東だからか、それは察せられるほどのものではあった。
「よく考えたらさ、別に何も起きてないんだよね。彼女が居たことなんて知ってるし当たり前だし、蓜島さんなんだから素敵な人と付き合ってたって言われても納得するし」
「まあ、それはそうだな。別に彼女に何か言われたわけでもなし」
「そう。だから変なこと考えるのはやめた。おれはそのまんま、もっと蓜島さんに素を見せられるようにする」
このやりとりは相談というものでもない。ただ東の決心を和山が一方的に聞いただけだが、考えを言葉にしたことで改めて決意が固まったようだった。
「うん、いいんじゃないか」
そんな自分なりのリズムと考え方で突き進む東のことを、和山は静かに見守っていた。
素直になる、ということは東にとってすごく難しい。人が羨むような美貌を持って生まれたところで、何不自由なくのびのびと生きることは簡単ではなかった。
東は再三言われているように、本来はのんびり屋で面倒くさがりで、そのくせ妙にこだわりが強くて頑固な面もある、少し我儘な男だ。
その神経質さや集中すると他のことが目に入らなくなる性質は、パティシエとしての仕事に光るものを与えているが、人付き合いにおいては度々マイナス面として現れて、この上品で優しそうな見た目で勘違いした人たちが幾度となく東に失望の眼差しを向けた。
いくら細かいことは気にしない東でも、そういう経験が増えると流石に堪えた。そのうちに、取り繕って周りが求める自分像を演じるようになったのだ。
いつだって綺麗でおおらかで、優しくてカッコいい、憧れの王子様。そうじゃない自分の理解者は、数少なくたっていい。みんなにわかってもらおうとして傷付くのはもうごめんだったし、本当の自分なんてわかってもらえることは少ないんだと諦めてしまうには十分なほどに東は傷付いてきたのだ。それは無理もないことだった。
「こう見ると、お前も非の打ち所のない美人に見えるんだけどな」
雑誌をぱらぱらとめくりながら和山がそう呟く。スイーツ特集のそれはもちろんパティシエの写真よりもケーキの写真のほうが多く載ってはいるが、東の写真は他の店舗のパティシエたちよりも少し多めに大きく載せられている。それも納得がいくくらいに、写真の出来がいい。インタビューの内容も、きちんと良いところを見せたうえでうまく編集してくれているので、東自身が見てもめちゃくちゃ出来る男みたいだな、なんて思った。
「おれめっちゃ仕事できそう~。まあ仕事しかできないんだけど」
「また卑屈になってるなあ」
「……卑屈っていうか、そういうわけじゃないけど」
東は落ち込んでいるというわけではなさそうだったが、和山の目にはやはり元気がなく見えていた。長い付き合いの和山でなければ見逃してしまうような些細な変化だが、和山の前では本心を隠さない東だからか、それは察せられるほどのものではあった。
「よく考えたらさ、別に何も起きてないんだよね。彼女が居たことなんて知ってるし当たり前だし、蓜島さんなんだから素敵な人と付き合ってたって言われても納得するし」
「まあ、それはそうだな。別に彼女に何か言われたわけでもなし」
「そう。だから変なこと考えるのはやめた。おれはそのまんま、もっと蓜島さんに素を見せられるようにする」
このやりとりは相談というものでもない。ただ東の決心を和山が一方的に聞いただけだが、考えを言葉にしたことで改めて決意が固まったようだった。
「うん、いいんじゃないか」
そんな自分なりのリズムと考え方で突き進む東のことを、和山は静かに見守っていた。
素直になる、ということは東にとってすごく難しい。人が羨むような美貌を持って生まれたところで、何不自由なくのびのびと生きることは簡単ではなかった。
東は再三言われているように、本来はのんびり屋で面倒くさがりで、そのくせ妙にこだわりが強くて頑固な面もある、少し我儘な男だ。
その神経質さや集中すると他のことが目に入らなくなる性質は、パティシエとしての仕事に光るものを与えているが、人付き合いにおいては度々マイナス面として現れて、この上品で優しそうな見た目で勘違いした人たちが幾度となく東に失望の眼差しを向けた。
いくら細かいことは気にしない東でも、そういう経験が増えると流石に堪えた。そのうちに、取り繕って周りが求める自分像を演じるようになったのだ。
いつだって綺麗でおおらかで、優しくてカッコいい、憧れの王子様。そうじゃない自分の理解者は、数少なくたっていい。みんなにわかってもらおうとして傷付くのはもうごめんだったし、本当の自分なんてわかってもらえることは少ないんだと諦めてしまうには十分なほどに東は傷付いてきたのだ。それは無理もないことだった。
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