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本編
22.お互いのこと(2)
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しばらくして運ばれてきた料理もデザートも、どれも本当に美味しくて、二人とも大満足だった。東は職業柄、やはりデザートメニューに対して分析するような食べ方をしてしまって、蓜島はそれがなんだか微笑ましかった。
「ついこれはどういう工程で作ってるんだな~とか素材はどこのだろうとか考えちゃうんですよね」
「職業病というやつですかね」
「絶対そうですね。僕はこのチーズクリームとかベースになるビスケット生地とか、こういうところの細かい技はまだまだなんですよね」
「甘味と酸味のバランスや食感の違いの出し方が繊細ですね。東さんのケーキはフルーツの活かし方が素晴らしいですが」
他店のケーキを食べて褒めつつも、東の作るものの素晴らしさもきちんと理解して伝えてくれることが東は嬉しく思う。常連だけあって、蓜島はちゃんと東の強みをわかってくれている。
少しだけむず痒いような気持ちにもなって、東は照れながらありがとうございます、と伝えた。
「お店の名前もそこからきてるんですよね?」
「あ、そうなんですよ。わかってくれてるの、嬉しいなあ」
「ジュは果汁のことなのかと、初めて食べたときすぐにわかりました。それほどに東さんのケーキは、フルーツへの情熱が感じ取れます」
「情熱と言われるとちょっぴり恥ずかしいですけど。実は、うちの実家がイチゴ農家なんですよ。なので果物の理解は少しはあるつもりです」
「そうだったんですね。道理で」
知り合ってから、お互いについてそう深い話をした訳でもなかった。なので知らないことはたくさん出てくる。
蓜島は東の話を聞きながら、そのどれもが興味深く感じられた。東の話はメディアに出ているときには聞けないような話ばかりで、蓜島は東のファンとして嬉しい気持ちももちろんあったが、それよりももっと純粋に、目の前にいる東聡介という人のことをもっと知りたいと思う気持ちが強くなっていた。
二人はランチを終えて、店を出る。駅から歩いてすぐの自然公園を散歩することにした。軽い運動場やピクニックができるようなスペースまであるその公園は、土曜日らしく家族連れやカップルがのんびりと過ごしている。
二人はワゴンで売られていたアイスコーヒーを揃いで買って、食後のコーヒーとして楽しんだ。夏の晴れた昼下がりに自然の中で飲むアイスコーヒーは格別だった。
「あそこ、すごく美味しかったです。普段行く定食屋さんも好きなんですが、ああいう洒落た味の店はやっぱり目新しい発見があって楽しいですね」
「刺激になって良いですよね。家で真似できるかな、みたいな」
「わかります。つい調べてしまいますよね」
食という楽しみが共通している二人は、自然と話が弾むものだった。
「蓜島さんが行ってる定食屋さんも気になるな。美味しいんだろうな」
東はそう言ってから、自然な話の流れとして他意はないのに、まるで次のデートの誘いみたいだとハッとした。
「今度行きましょうか。ごくごく普通なんですけど、素朴で安心するところなんで…す、……?」
蓜島もそう返しながら、また次の約束をしていることに気付き、言葉が途中で続けられなくなってしまう。
これでは本当に、付き合いたての恋人同士が仲睦まじく次のデートの行き先を決めているようだ。
蓜島はじわりじわりと赤面して、歩みが止まる。それは、今しがた発した自分の言動に対しての動揺ゆえではない。
自分がまた東と一緒の時間を過ごしたいと、ごく自然に思っていると気付いてしまったからだ。
「ついこれはどういう工程で作ってるんだな~とか素材はどこのだろうとか考えちゃうんですよね」
「職業病というやつですかね」
「絶対そうですね。僕はこのチーズクリームとかベースになるビスケット生地とか、こういうところの細かい技はまだまだなんですよね」
「甘味と酸味のバランスや食感の違いの出し方が繊細ですね。東さんのケーキはフルーツの活かし方が素晴らしいですが」
他店のケーキを食べて褒めつつも、東の作るものの素晴らしさもきちんと理解して伝えてくれることが東は嬉しく思う。常連だけあって、蓜島はちゃんと東の強みをわかってくれている。
少しだけむず痒いような気持ちにもなって、東は照れながらありがとうございます、と伝えた。
「お店の名前もそこからきてるんですよね?」
「あ、そうなんですよ。わかってくれてるの、嬉しいなあ」
「ジュは果汁のことなのかと、初めて食べたときすぐにわかりました。それほどに東さんのケーキは、フルーツへの情熱が感じ取れます」
「情熱と言われるとちょっぴり恥ずかしいですけど。実は、うちの実家がイチゴ農家なんですよ。なので果物の理解は少しはあるつもりです」
「そうだったんですね。道理で」
知り合ってから、お互いについてそう深い話をした訳でもなかった。なので知らないことはたくさん出てくる。
蓜島は東の話を聞きながら、そのどれもが興味深く感じられた。東の話はメディアに出ているときには聞けないような話ばかりで、蓜島は東のファンとして嬉しい気持ちももちろんあったが、それよりももっと純粋に、目の前にいる東聡介という人のことをもっと知りたいと思う気持ちが強くなっていた。
二人はランチを終えて、店を出る。駅から歩いてすぐの自然公園を散歩することにした。軽い運動場やピクニックができるようなスペースまであるその公園は、土曜日らしく家族連れやカップルがのんびりと過ごしている。
二人はワゴンで売られていたアイスコーヒーを揃いで買って、食後のコーヒーとして楽しんだ。夏の晴れた昼下がりに自然の中で飲むアイスコーヒーは格別だった。
「あそこ、すごく美味しかったです。普段行く定食屋さんも好きなんですが、ああいう洒落た味の店はやっぱり目新しい発見があって楽しいですね」
「刺激になって良いですよね。家で真似できるかな、みたいな」
「わかります。つい調べてしまいますよね」
食という楽しみが共通している二人は、自然と話が弾むものだった。
「蓜島さんが行ってる定食屋さんも気になるな。美味しいんだろうな」
東はそう言ってから、自然な話の流れとして他意はないのに、まるで次のデートの誘いみたいだとハッとした。
「今度行きましょうか。ごくごく普通なんですけど、素朴で安心するところなんで…す、……?」
蓜島もそう返しながら、また次の約束をしていることに気付き、言葉が途中で続けられなくなってしまう。
これでは本当に、付き合いたての恋人同士が仲睦まじく次のデートの行き先を決めているようだ。
蓜島はじわりじわりと赤面して、歩みが止まる。それは、今しがた発した自分の言動に対しての動揺ゆえではない。
自分がまた東と一緒の時間を過ごしたいと、ごく自然に思っていると気付いてしまったからだ。
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