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逃げたらまさかの溺愛でした

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 落ち込んだような仕草をすれば、こうきは慌てて私を抱きしめてキスをする。そんなことない、と宥めるように。そして、その奥でくすぐったそうに嬉しそうにしているのを私は見逃さない。

 こうきがいなくなって私は反省をした。こうきがあまりにちょろくて可愛いから、このままでいいやと安易な判断をしてしまった自分が憎い。
 もはや1人えっちで満足出来ず、半泣きのこうきを捕まえたのはこうきが私の元から去ってから3日目だった。短い逃亡と言われることもあるがとんでもない。こうきに何かあったらどうしようかと発狂するかと思った。

 それまでこうきには裏を見せたことがなかった。常に清く正しく優しいサイリ。こうきはそう思っていたはずだ。計算高く、執着質で目的のためにはなんでもする本来の私を隠して、私なりにこうきを愛していたのだが間違いなら修正するしかない。

「嫌いにならないで。私はこうきを愛してるんだ」

 こうきを見つけ出した時には、敢えて弱みを見せて憐憫を買えるよう嘘の涙を流した。それがこうきには衝撃だったようで、慌てていたが愛している事実に変わらないと真摯に伝えればこうきは許してくれた。こうきにはこういう穏やかなところがある。可愛い。
 今までの作戦で失敗したなら、修正して時々弱みを晒せばいいのだ。私のような人間がこうきに縋り付くというのは意外性があるようで、こうきはこれにメロメロだった。ちょろ過ぎか。可愛すぎるだろ。

 今回の喧嘩もそうだ。
 今回の遠征先にはこうきにあてがう予定候補の男がいた。だから密かに遠征を邪魔していたのだが、それがこうきにバレたのだ。

「俺のこと不甲斐ない、弱い奴だと思ってるんだ……」

 としょぼくれたこうきはめちゃくちゃに可愛かった。そんなこと一切思っていない。こうきは努力家で、強くて可愛い。誤解されたことに慌てるふりをしなきゃいけないのに、可愛くて顔のゆるみを直すのに苦労した。

「そんなことないよ。私は君が危険な所に行くのが嫌で。今の暗黒渦はこうき以外でも鎮められるのにさ……いや、君を騙していた私がこんなこと言っても信用できないか」

 わざとくさい自虐は、面倒くさい男の特徴でもあるが
 このような姿を晒すことはこうき以外にはしていない。そもそも本当は落ち込んでもいないのだが。まあ、それはともかく自分にだけ弱い完璧な男というのがこうきのツボなのだろう。
 特別感が嬉しいようで、でもそれを表に出してはいけないとも自覚し、喜びを押し殺しヨシヨシプレイをしてくれるこうきよ。はあはあ、いい匂いだ。今日は全身を舐めさせてもらおう。

 これで今・回・も・許してもらえた訳だ。遠征には私もついて行くし、遠征が止められないなら相手の男を消すまでだ。遠征の間、ベッドの上から動けない身体になって貰う。
 なにせ、私はこうきの性魔法のことを知っている奴を許していない。何を許していないと言われると困るが、強いていうなら存在だろうか。

 こうきが最高に感じやすくてエロいことは私だけが知っている事実であるべきだったのだ。こうきが聖魔法を使えるようになり、王と謁見した時は大変だった。あのクソ野郎どもが私のこうきをいかがわしい目つきで見ていたのだ。殺意が滲み出ないように抑えるのに必死だった。帰りの馬車でこうきがあのクソ野郎どものことで何か言いたげな表情をしていたが、俺はブチギレている。一回そのことを話し出したらこうきの中の完璧なサイリが壊れてしまうかもしれない。俺は笑顔でしらばっくれた。

 また、その頃からこうきにあてがわれる男が送られるようになった。来る日も来る日も相手を失脚させ、時には闇討ちしたが、数が多かったため上層部まとめて殺してやろうかと思った。幸いにも私には魔法の才能もあったため、出来なくもなさそうだが、私は片時も離れずこうきと一緒にいたい。王や宰相がいなくなったら、国が成り立たなくなり、そのような雑務はしたくはなかったので我慢をした。その代わりEDになる魔法をかけてやった。ざまあみろ。

「サイリ、大丈夫?」

 こうきの腕の中が気持ち良過ぎて、まどろんでいたら心配されてしまった。もう少し可愛さを堪能していたい所だが、意外性。こうきの世界でいうところのギャップだったか。そのギャップは時々あるからいいのだ。

「大丈夫。こうき、愛してるよ」

「うん。俺も」

 はーーー。可愛いかよ。
 ちょっと照れながら、はにかむ私のこうきの可愛いこと。可愛いこと。

「あとさ、今日の夜……」

 何か言いづらそうにしているこうきに、優しく続きを促す。夜、は私たちの間でイコールセックスを指す。あれからも私たちは毎晩愛し合っていて、その結果こうきの力は強くなり続けている。
 最初は性欲剤を飲んで無理やり毎日だったが、身体がなれたのか今やもう、こうきを目の前にムラムラが止まらない。勉学はある程度収めているのだが、この性欲は明らかに異常だ。まあ、愛しているから仕方ないか。

「その、せっ、えぇと、ぇっちなんだけど」

 今だにセックスというのが恥ずかしくて言えないこうき。可愛いかよ。妖精さんか。セックスの代わりのえっちという言葉は大変えっちだし、あんなに淫猥に乱れるのに恥ずかしいとか。これか。これがギャップか。最高だな。

「おやすみしてもいい?」

 暗黒渦に片足持っていかれる以上に攻撃を受けた。微笑したまま私は混乱と絶望の渦に飲み込まれている。渦だけにな!!どういうことだ。まさか私が嫌いになった?いや、そんなわけが無い。こうきの態度はあからさま私が好きで好きでたまらないと言った様子だ。
 声が震えないようにするよう、理由を問いただすのがやっとだ。

「もちろん構わないけど、どうしたの?」

 本当は構わなくない。構わなくないが、そう言うしか無い。なんだ。まさか強くなる必要ないからもうセックスする必要ないとでも誤解したのか。確かに毎日セックスするのが習慣すぎて、そこまで説明はしていない。だが、誤解しないでくれ。私はこうきが好きで、愛しているから抱いているんだ。

 ポーカーフェイスの下で、百面相をしている私にこうきは顔を寄せて言った。

「我慢すればするほど気持ち良くなるんだって」

 足りない言葉に一瞬言葉を失ったが、私はすぐに理解した。

「性欲を限界まで引き上げるんだね」

 要は、性欲限界セックスがしたいんだな!可愛いかよ。えっちで可愛いって最高かよ。最悪な展開を免れ、なんならこうきの奔放な姿勢を見て興奮が抑えられない私は今夜の我慢でさえ怪しい。だが、それが本当に限界なのだろうか。

「それって一日の我慢でいいのかい?」

 本当はこんなことを言いたくない。でも、こうきがそれを味わいたいと言うのならやぶさかでもない。こう言う場合、禁欲期間は一週間くらいではないだろうか。

「そうだね。例えば一週間とか」

「一週間!?」

 こうきにとって一週間は想定外だったのだろうか。大丈夫。私はこうきのためならいくらでも我慢してみせるさ。
 こうきは目をぱちぱちと瞬かせ、ちょっと泣きそうな顔をして私を見た。

「一週間なんて無理だよ。せめて3日にして」

 かわいいかよ。

 こうきが言い出したのに。我慢できるのは3日だけか。誰だよ。こんなに可愛いこうきをここまでえっちにしたのは。私だよ。

 つまり、私は完全勝利だな。




「分かった。三日だけ我慢して四日後最高の夜を迎えよう」








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