悪役令嬢さん、さようなら〜断罪のその後は〜

たたた、たん。

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ザマァレボリューション

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 彼と組んでしばらく経っても、私は仕事に連れて行ってはもらえなかった。
 与えられる命令は、家事やお使い、はたまた恋人である女の人への伝言など多岐に渡って。それでも、そういう契約でパーティに入れてもらったのだから、しょうがないとも思っている。

 あの時、無表情で「俺のいうことに絶対服従」と言われた時は意味が理解できなかった。「嫌ならいい」と言われて初めてそれが、パーティ加入の条件と察し、何がなんでも彼と組みたかった私は、勢いで受け入れてしまった。別に、今も後悔はないし明確な契約があった方が裏切られた私には気楽な気分だ。

 ドライな関係の方が、余計なことを考えずに済むから。

 ただ、夜のご奉仕を求められた時は死ぬ気で抵抗した。色々諦めてしまっている私だけど、純潔くらいは守りたい。何かするわけではないが、慌てて机の上にある果物ナイフを握りしめ、全力で拒否したら彼はあっさり頷いてくれた。そもそも、そういうことには困っていないのだから、わざわざ私にさせなくてもいいと思う。
 少しだけ、本当に少しだけあれだけ格好良くて色気のある男性に迫られてクラっときたのは内緒だ。

 お金もなく住む場所もない私を、居候させてくれたのはありがたいが、彼は私に興味もなく冷たい人だった。このままだと、そう遠くないうちに捨てられる、そう分かるほどには私だって鈍くなくて焦る。

 一週間、彼が遠地へ依頼をこなしに行っている間、私はひたすら地道に低ランクのクエストをこなしていた。夜は、勉学のために本でも読みたいが本などあまりに高すぎて手に入らない。今まで本を気楽に読んでいた自分がどれだけ恵まれていたかしみじみと痛感する。

「おかえりなさい」
「……」

 彼からの返事はない。彼は無口で必要最低限しか話さず、私は今のところ彼の家政婦のようなものだ。しょうがない。私は居候で、無理にパーティを組んでもらっている。
 彼が善人でなくてよかった。善人だったら、申し訳なくなってしまうから。冷酷に近い彼だからこそ、私は自然体でいれる。

「夕ご飯作ったわ。食べる?」
「食べてきた」

 やっぱり。彼は、生活費として私にこの町の月給の3倍のお金を渡す。それには食費も含まれているのに、彼は私の作った料理を食べない。お前も外で食べれば?と言われたこともあるが、人のお金で贅沢していいか分からない。だいたい、彼は私の作った料理が美味しくないからそう言うのだろう。
 少し焦げた野菜炒めを食べながら、彼がバスタブに湯を張る音を聞く。少し寂しいけど、私たちの関係はこれでいいと思った。





「ハカイナ草の知識はあるか?」

 それは、彼が久し振りに命令以外に話しかけてきた日のことだった。相変わらず、無表情で話しかけてきた彼はなんの期待もしていない風で、機械的に聞いてきたことが分かる。そして、そのハカイナ草の本を読んだことがある私はやっと彼の役に立てると自信満々に言い張った。一方な施しを漠然と受け入れるほど私の腹は黒くないのだ。

「当たり前よ!私を誰だと思っているのかしら!」

 言ってから、しまったと思う。自分を大きく見せるためのこの尊大な言い方はなかなか治らない。せめて、彼が露骨に嫌な顔をすればもっと気をつけられるのに彼は全く気にしないから、そのままになってしまっていたのだ。

「なら、今回の依頼付いて来い」
「!、分かったわ」

 初めてのことだった。彼が付いて来いなんて。今度こそ、私のの価値を認めさせてみせ、パーティに必要だと思わせる。何事によっても覆らないほど彼に認めさせてみせようと、決心する。

 ハカイナ草は、10年に一度しか地上に出ないと言われている貴重植物。自生する場所は、主に東の森の一番大きな魔獣の縄張りの中で、それは魔獣がいるからハカイナ草があるのではなく、ハカイナ草があるからその森で一番強い魔物が縄張りとして支配下におけると記述してあった。それは、ハカイナ草が魔素の強いところに出現し、魔獣は魔素の強いところを好む習性があるからかもしれないが、兎に角、森で一番の魔獣、しかも群れとなると依頼の難易度は格段に上がる。

 また、捕り方にも工夫が必要で、失敗するとその場で枯れてしまうから注意が必要な植物でもある。

 役に立ってみせる、と決意してすぐに私はそれが困難だということが分かった。まず、移動が馬なのだ。馬車しか乗ったことのない私は、私のために一頭借りるのは勿体無いからと、彼の馬に付与魔法をかけ、彼の後ろにひっついて乗ることとなる。当然のように、ひょいと軽やかに乗馬する彼は、まさか私が馬に乗ることさえ出来ないなんて考えもしなかった。……のか、ただ単にそういう人だから手伝う気がなかったのか、手を差し出してはくれなかった。だが、ここで乗れないなんて言ったら、知識だけ教えさせて私を家に置いていくかもしれない。それが嫌で、私はなんとか誤魔化そうと、普段の私の尊大な態度を利用することにした。

「ちょっと。レディに手を貸すのは常識じゃなくて?」

 内心、乗れないだけとばれたらどうしようと思いながら、いつもの調子で言ったら彼は、無表情で手を差し出してくれた。この時にはなんとなく分かっていた。彼は、面倒くさいことが嫌いで、私の相手も面倒だから、大概のことは従ってしまおうというスタンスだということを。

 取り敢えず、その作戦で、馬に乗ることに成功した私はその後剥き出しの身でトップスピードの馬に乗ることの恐怖を味わうことになる。




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